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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
 形として見えない音は、それでも兄が秘めたるものと似たぬくもりを帯びているのだろうと──童は自身も兄と並び、同じ姿勢を取った。
 そして優沙もまた、何かに取り憑かれたかのように一心に、手を動かしていた。
 ──指が無くなったなら平で、平が無くなったなら手首で、手首が無くなったなら肘で。
 神から降されたその残酷な言葉を体現するかのように、一心不乱に音楽を奏でていた。
 そして奏でている内に、頭の中に、かつての自分の姿が浮かんでいることに気付いた。
 ──家近くの、生け垣に囲まれた細い路地。優沙もよく知る、井戸近くの道。たくさんの巫女や覡(おかんなぎ)が、お喋りをしたり遊技に興じている。ほとんどが顔見知りで、勿論たまには喧嘩やいざこざもあったけれど……常は朗らかな気配に満ちた、住みやすい共同体だった。
 それをじいっと見つめている何かがある。
 低い視界。狭い視界。
 けれどもその中には、確かに優沙の姿もあった。いつのことだか思い出せはしなかったけれど、立ち止まってお喋りをしていた。
 楽しそうな声。笑い声。
 その低い視界の主(ぬし)は……「彼女」は、確かに自分のことも見て、知っているようだった。
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