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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
 彼女は、常は誰にも気にしてもらえないけれど、たまに井戸の順番待ちをしている巫女達のお喋りに耳を傾けて頷いたり、笑ったり、怒ったり、泣いたりしていた。横に毬や羽根が飛んできて、それを拾いに来た覡と目が合った気がして、胸を高鳴らせることもあった。
 ──動けはしないけれど。語れはしないけれど。
 いつかは綿毛の種が、その人のお家まで届くかしらと時の流れに想いを馳せることもあった。
 覡だけではない。いつも元気なあの子のところにも。強がりだけど、本当は優しいあの子のところにも。本を読むのが好きなあの子のところにも。私と同じ、赤い花の飾りを着けているあの子のところにも。それから、それから──
 ──楽器がとても上手な、あの子のところにも。
 そうしたら私もきっと、もっともっと楽しい。楽しくなるはずだ──と。春、夏、秋、冬と短い生を繰り返していた。誰かに届くように、一生懸命、背伸びをしていた。
 誰か──気付いて──と。
 「──あ……」
その刹那、優沙の脳裏に一人の小さな女の子の姿が浮かんだ。稲妻が走ったかのように瞬き、赤い花模様の着物を纏った女の子の薄い像が見えた。
 自分達の真似をして、ぶきっちょに結んだ葉っぱの襷を掛けて、「お姉さん」巫女達の輪に混ざるように立っている。
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