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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
 このままでは、本当に使い物にならなくなるかもしれない。
 けれど今の優沙にはそれ以上に為さねばならぬことがあって──今目の前に在るだろう花の神から何かしらの験(しるし)があるまで、このまま弾き続けなければと思っていた。たとえこの右腕が削がれたとしても、それまでは自分ができる精一杯の音を捧げようと思っていた。
 一音。一音。どれほどそれが聞くに耐えない、みっともない、無様な音であったとしても──
「……っ!」
──そして更に一音、歪に腕を動かし絃を掻こうとした瞬間、
「……もうよい」
不意に視界に真白の光が滑り込んで、その手を優しく押し留めてくれた。
 「あ……」
白い光。銀の影。夜の闇を宿す男の手。優沙の真っ白に染まっていた思考が、同じ色をしているはずの衣によって再び精彩を取り戻していく。
 いつからそこにいたのか、庭先に降りて月光を輪郭に纏い、爽風に髪と衣を靡かせながら自分を見下ろしている男神──失せた笛の音の代わりに紡がれた声音は柔く、逆光の中にあっても光を宿す瞳は一時の満ちた心地を楽しむかのように細められて、薄い唇にも確かに小さな笑みが湛えられていた。
「つ……くよみ、様」
「……」
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