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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
この青年のことは、優沙も多少は見知っていた。本人が覚えているかは分からなかったが、当時はまだ“童”という立場で兄と二人、優沙の祓えの場に控えていたこともあった。だからもし覚えていたとしたら、……あの黄泉帰りの物語を果たした今、どんな気持ちでこの話を聞いていたのだろう。
 無愛想なのは実はそのまま、複雑な心境を隠すためのものなのかもしれなかった。だとしたら、ただの不器用だ。
 それはともかくとしても、こんな堅物そうなのが自分の禊でなくて良かったと心から思ったが、言葉にはしないでおいた。何のためのものかは知れないが、手首に巻かれたおそろいの紐飾りが──この無愛想な男がそれを大人しく受け入れている様が、妙に可愛らしくも見えたのだ。
 今目の前に並ぶ二人は噂に違わず特別で、優沙はやはり会ってよかったと未だに包帯を巻きつけてある右手に目を遣った。
 そしてそれに気付いた少女もまた、そちらに目線を落とす。
 あの──美しくも荒々しく、また和なる月の神が見定めた、もう一人の巫女。

 ──その巫女と二人の僕が離れ小島を訪ねてきたのは、秋も盛りを越えた頃だった。
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