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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
童はあの時の礼にと出された生菓子をぺろりと平らげ、惜しそうに指先を舐める。
 主が口にしているものと同じ、ふかした甘藷(かんしょ)を練って作られたきんとんは、飴や糖とは異なる……柔らかな蜂蜜の味もしていた。祠近くの庭木の下に置かれた箱が何のためのものか童には分かって、きっと春になったらまた、この家人は花の神がもたらす別の恵みを授かるのだろうとにかっと笑んだ。時期が来たら、お裾分けをねだるのも悪くない──。
 そうして和やかに言葉を交わす二人の背に、神依もまた少しの勇気を貰い、優沙と向かい合っていた。
「あの──優沙さん」
「? なあに?」
「その……手はまだ痛む?」
「ああ、これ?」
優沙は神依の視線を追って、包帯の巻かれた右手をひらひらと動かしてみせた。
 自分と同じように禍津霊に襲われ、天津神の慈悲を受けながらもその傷痕を残す右手は、やはり神依には未だに痛々しく見えたのだが……優沙は何でもないように笑いながら、続ける。
「月読様の印はあれからずっと、この身に宿る穢れを眠らせてくれてる。だからもう、痛いとか痒いとかそういうのはないわ。でも──事情を知らない巫女達にいちいち説明するのって面倒でしょ? だから普段は痣のせいにして、隠してるだけ」
「あ……それは、確かに」
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