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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
けれど友の言う「愚痴」が鬱憤から出るものではないことも知っているので、そうなったらそうなったで存外めでたいことなのかもしれない、と密かには思った。

 そのままわずかな時間を歩むと猿彦の領界を抜け、人々が視認できる現の淡島に出る。そこで真っ先に目に入ったのは、滔々と清らかな水を雲海に送り出す、ひときわ緑生い茂る島だった。
 こうして下から臨む大鳥居や朱の楼閣も、もう見慣れたものだ。
 その遥か底ではのんびりとうねる巨大な龍の腹が夕陽にちらちらと煌めいており、日嗣は再び、その目や唇に満ちた世界の一端を滲ませた。
 (……あの子龍と赤子も、そうなればいいのだが)
執着や固執と共に少女の中から抜け出したあれらは、こんな風に満ちた温もりを得ることができただろうか。新たな生で……目立たなくてもいい、平凡でもいい。幸せな物語を紡げているのだろうか。
 冷たい部屋の空気や、無機質な家具が出迎えてくれるだけのものではない、本当の「帰る場所」を得て。自分達を慈しんでくれる父母や兄弟、友や想い人と共に、どこかの世界、いつかの時の中を生きていてくれるのだろうか──。
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