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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
「お留守番、お願いね」
準備も整い、神依が窓辺にあるカゴの寝床を覗けば、子龍はまるで神依の言葉を理解しているかのように一度鳴いてみせ、くるんと身を丸めて目をつむってしまう。その姿は、主の企みを素知らぬ顔で流す忠臣の様だと日嗣はいつも思っていた。
そして神棚から鏡の欠片を拝借したら、立て付けの悪い雨戸を開けるのは神依の役目。音を鳴らさないようにするのにも慣れた。差し出された手を取りそっと庭に降りて、急ぎ竹林の小路を抜ければ、そこはもう二人だけの世界だった。
「──日嗣様、大丈夫ですか? 真っ暗なのは……怖くありませんか?」
「ああ。お前と一緒なら、何を思い出すこともない。それにこういうのは、悪さをしているみたいで楽しい」
「良かった。あ、それにもうすぐ満月だし……淡島の夜は黄泉国と違って、月読様の世界だから。日嗣様の味方ですよ」
「……」
「そこは一応、素直に頷いてあげて下さい。お月様、隠れちゃいますよ」
「……お前も一応、察してやってくれ。お前の口から、他の男神の名が出るのが嫌なんだ」
「……」
意地悪そうに笑う気配が空気に混じり、神依は唇を尖らせる。
苦にならない沈黙。いつかのように手を引かれて歩む夜道は、今日は明(さや)かともいかず、鏡の灯りを借りても水面を歩いているようにぼんやりと明るい。
準備も整い、神依が窓辺にあるカゴの寝床を覗けば、子龍はまるで神依の言葉を理解しているかのように一度鳴いてみせ、くるんと身を丸めて目をつむってしまう。その姿は、主の企みを素知らぬ顔で流す忠臣の様だと日嗣はいつも思っていた。
そして神棚から鏡の欠片を拝借したら、立て付けの悪い雨戸を開けるのは神依の役目。音を鳴らさないようにするのにも慣れた。差し出された手を取りそっと庭に降りて、急ぎ竹林の小路を抜ければ、そこはもう二人だけの世界だった。
「──日嗣様、大丈夫ですか? 真っ暗なのは……怖くありませんか?」
「ああ。お前と一緒なら、何を思い出すこともない。それにこういうのは、悪さをしているみたいで楽しい」
「良かった。あ、それにもうすぐ満月だし……淡島の夜は黄泉国と違って、月読様の世界だから。日嗣様の味方ですよ」
「……」
「そこは一応、素直に頷いてあげて下さい。お月様、隠れちゃいますよ」
「……お前も一応、察してやってくれ。お前の口から、他の男神の名が出るのが嫌なんだ」
「……」
意地悪そうに笑う気配が空気に混じり、神依は唇を尖らせる。
苦にならない沈黙。いつかのように手を引かれて歩む夜道は、今日は明(さや)かともいかず、鏡の灯りを借りても水面を歩いているようにぼんやりと明るい。