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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
満ちるにはまだ足りぬ春の月は、件の男神さながらに気だるそうに雲に滲んでいた。でもその色は、藍に藤に、優しく穏やかな趣で世界を見下ろしている。
 (……なんだか、懐かしい)
……離ればなれになっていた頃、文で交わした約束。また誰に取ってもひとつの契機となった、世界が洗われた晩のひとときを再び得るべく、二人はこうして月夜に度々出歩く。
 それに人目を忍んで遊びに出掛けるのは、神依にも純粋に楽しく感じられた。些細な決まり事を破るのは、ドキドキもするしワクワクもする。
 それを言えば、悪童だな、と日嗣は笑った。
「でも連れ出してるのは、毎回日嗣様です。もうガキ大将みたいだって、童からも聞いてるんですから」
「待て、あれは俺をそんな風に見ていたのか」
「慕われてるってことです」
他愛ない話を重ねながら進めば、景色も次第に神依の見知らぬものになってくる。
 野原や林、山あいの所々に見える小さな家は神依の家とは明らかに造りが違う。強いて言うなら、黄泉で一夜を過ごした村に似ている。口には出さなかったが……轍の残る道、冬の野菜の残骸、その過ぎ行く季節の草と萌え草とが入り乱れる土手と、なぜか懐かしく感じる鄙(ひな)のさま。原風景とでもいうのだろうか。
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