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彼の秘密
第21章 夏休み
暖かい背中、息で上がる肩。
汗の湿った匂いが鼻を掠めて、彼が走ってきたことがわかる。
とても愛しく感じた、家族を亡くして誰かに暖めて欲しかった。
でも誰でも良かった訳じゃないことに、自分の心が物語っていた。
唐突に先生の前では押し止めていた涙がまた溢れた

溢れたら止まらなくて、背中に回した手がきつくシャツを握り、首に埋めた顔から溢れた涙が彼の肩を濡らす。
小さな子供のように泣きじゃくる自分の背中を擦る手が、暖かくてまるで母親になだめられているようなのに、泣き止むどころか益々慟哭は大きくなるばかりだ。
それは改めて家族を亡くした実感と、大切な人の温もりを同時に味わってしまったからだと思った。

そんな自分を彼は何も言わず、泣き止むまでただ抱き締めてくれた


「落ち着いた?」
首に顔を埋めたまま頷く。
まだ温もりを感じていたかった

そうと優しい声が耳を通り抜け、しっとりと頭を撫でる感触が伝わり、その心地よさに浸ればまた耳に心地よい声が響いた
「今日、夜に花火大会があるんだけど。見に行こうか」

「えっ?」
唐突すぎる提案に、顔をあげて視線を合わせた。
泣いている間に、座り込んでいた俺の体を囲むように足を立てている先輩が、俺の前髪をかきあげながらにこっと笑った。
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