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タイムリミット365
第9章 最期の作品
何事もなく無事に出版社に到着して、私はホッとしていた。
本人が言うように、今日の輝翔は体調が良いみたいだ。
担当の浅沼さんの所へ向かうエレベーターの中でも、私は輝翔の手を握っていた。
出版社へ着くと、浅沼さんが前回と同じように、爽やかな笑顔で出迎えてくれた。
「成海、羽音ちゃん、よく来てくれたね。どうぞ、こちらへ。」
通された部屋のソファーに座ると、輝翔が浅沼さんに原稿を出した。
「最後まで書き終わった。とりあえず、読んでみてくれ。でも、俺はこのラストを訂正する気はない。これが、今俺が描いている、精一杯のラストになってると思うからな。」
「そうか、わかった。お前がそう言うなら、そのままでいいんじゃないか?後で、ゆっくり読ませてもらうよ。」
珈琲を一口飲んで、浅沼さんが、私をチラッと見る。
「羽音ちゃんは、もう読んだのかい?」
「いえ、私はまだ読んでないです。」
「俺が先に読んでいいの?先に羽音ちゃんが…。」
すると、浅沼さんの言葉を遮るように、輝翔が話に入ってきた。
「羽音には、今は読ませなくていいよ。いつか、読む日がくるだろうから。その時に、読んで欲しいんだ。」
「輝翔…?」
いつか読む日が来る?
その時にって…。
それは、輝翔がこの世からいなくなってしまったらって事…?