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古傷
第1章 ・・・1
朝食を口に運びながら手帳を開く。
途端に鼻腔をくすぐっていた匂いは消え、口の中にも物としての食感しかしなくなった

毎年この日は憂鬱になる
先程も寒さだけてベッドを出たくなかったわけじゃないかもしれない。
どこかで今日が、あの日が、夢であればと願って取った行動のような気がした

欠かしたことない日 元カノの命日

朝食を喉に通し、顔を洗いスーツに腕を通す

時間は10時を指し、丁度花屋も開いている時間になった。
火の元を確認し、自分以外いない部屋に行ってきますを言って出ていく

外は雨が降っていた黒の傘を差し俯きながら前をゆく

長年営業している街の人気花屋で菊を買い、そこから15分ほどまた歩いて墓地に着いた
傘をさしたままだからしゃがみにくい、雨は先ほどよりも強くなり風も強くなって傘が持っていかれそうになる
スーツはすでにびしょ濡れで靴下もじめじめしてきた
それでもなんとか花を飾り、手を合わせる

「まだ、俺を許してくれないか」
毎年決まってこの日は雨だ、彼女は雨が好きだった雨が降るたびに赤い傘をくるくる回してお気に入りの黄色いスカートがひらひらと舞う
後ろからはご機嫌な様子がうかがえ、それを見てるのが好きだった

でも、雨が好きな彼女は俺のことも好きだった
好きすぎたのか、昔を俺に重ねたのか

笑顔の裏には、覗くのが怖いくらいの闇が潜んでいた

そんな彼女に耐えられなくなって、手放そうとしたのが今の現状を招いた

それから彼女の命日には決まって雨が降った
私を忘れないでくださいと言わんばかりの大雨だ

傘を置き空を見上げた顔に雨が降り注ぐ、二月の雨なのに暖かかった
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