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天使さまっ!
第19章 センチメンタルジャーニー


楽しかったはずの夏祭りの夜は、だがしかし一瞬にして塗り替えられた。車両規制が敷かれる祭の会場に暴走した一台のワゴン車が突っ込んで、人々は逃げる間もなく被害にあった。次々にやってくる救急車のサイレンの音、赤くテラテラと回る光が夜空を染めた。


***


桜田ファミリア総合病院にも、何人かの被害者が搬送されて来た。救急病棟は緊迫した夜を迎えている。

騒然とした中、入院患者たちもテレビのニュース速報で事件を知り、憂えつつも事態の把握に努めた。


手術中のランプの前で一人立ち尽くす廊下。見慣れた場所でありながら、まるで知らない空間。意識だけはまだあるのか、生暖かい夏の風がまとわりつく不快感。下駄の素足にペタペタと粘着する生乾きの血液は最早誰のものかわからない。


「百瀬さん」


背後から肩を叩かれ、ようやく振り向く。汗と涙で頬に張り付いていた髪が引っ張られて剥がれる。ボロボロな姿のまま、まだ茫然としていた。


「あなたも怪我をしているわ」


手を引かれベンチに座る。浴衣にも血の跡が生々しい。見れば自分の両手も血に濡れていた。口を開き何か言葉を出そうとしても、声が出ない。パクパクと空回りするばかり、代わりに涙が溢れた。

目の前にかがんでいた婦長が、静かに抱きしめてくれたが。体や喉の痛み以上に、心が張り裂けそうだった。


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