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狂い咲く花
第27章 三、彼岸花 - 悲しき思い出
葉月の姿が見えなくなるまで手を振り見送った。
この時が一番寂しいと美弥は思う。
寂しく思いながら秋の空を見ながら時を過ごしていく。

「一線を越えたのですね」

空を見ている美弥に声がかかり、その声に反射的に身体が強張った。
顔を見なくとも、その声の主が誰なのか否応なしに分かってしまう。
恐る恐る目線を声のする方に向ける。
以前と変わりない笑顔の彼がそこに立っていた。
しかし、美弥が向ける感情はもう昔と変わっていた。

「幸信…さん…」

半年前に美弥を襲い、それからいまだに行方不明になっていた幸信がそこに立っていた。
幸信はゆっくりと美弥に近づく。
美弥は逃げようにも身体が動かなった。
徐々に近づいて来る幸信に嫌悪感と憎悪感が入り乱れ、自分が自分ではないような感覚に襲われた。
声も出せず凍り付いている美弥の前に立つと、手を頬に当てる。

「もう…あなたの目には私は写らないのですね…」

悲しそうにつぶやいて美弥の頬から手を離すと、美弥の傍に腰を下ろしてやさしく微笑んだ。

「心配しないでください…もう、この前のようなことはしませんから…」

弱々しく告げる幸信だったが、美弥の震えはまだ止まらない。
逃げ出してしまいたくてもまだ身体が動かなかった。
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