この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
狂い咲く花
第28章 三、クロッカス - 愛をもう一度(紫)
─…
──…
───…
「そろそろ行くよ…」
身体をゆっくりと起こしながら名残惜しそうに葉月は美弥に告げる。
美弥は何も言わずに静かに頷くだけだった。
「今日は実家に帰るよ…麻耶と喧嘩してね」
大きな溜息をつきながら履物を履く。
「きちんと話をしようとすると逃げるんだ…何か感づいてるんだろうな。…早く美弥と一緒になりたいけど…傷つけるにしても浅い方がいいと思うと…ごめんね」
その揺らぐ瞳に美弥は心苦しくなる。
美弥は立ち上がり葉月の首に腕を回して抱きついた。
「葉月一人のせいじゃない…麻耶を傷つける原因は私にもあるから…一人で悩まないでね。」
「うん。…ありがとう」
軽く美弥の頭を撫でて身体を離した。
「きちんと戸締りして寝るんだよ…明日の朝顔出すから…おやすみ」
「葉月、ありがとう。おやすみ」
目一杯腕を伸ばし、別れるギリギリまでお互いの温もりをかみしめた。
暗闇に姿が消えてなくなるまで美弥は見送った。
そして、また一人になる。
仕事が忙しいのか両親が家にいることが少なくなっていた。
寂しく思えても心は満たされていた。
戸締りも忘れ、月を眺め今の幸せをかみしめる。
二度と手に入らないと諦めていた幸せに美弥の心は穏やかだった。