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狂い咲く花
第29章 三、水仙 - 自己愛
───…
お昼を少し過ぎた頃、美弥は蘭子の手を引きながら麻耶の家に向かっていた。
歩く蘭子に合わせてゆっくりと進む。
立ち止まっては歩き立ち止まっては歩き、中々先に進まない。
それを急かすこともせずにのんびりと歩いていた。
小川を横切り、もう少しで麻耶の家に着こうかという場所で一人の男性がこちらに向かって歩いて来ていた。
怪我をしているのか左足を引きずっていた。
「蘭子、気をつけて」
走っていく蘭子に声をかけたのがいけなかたのか、こちらを振り返りながらその男性にぶつかった。
その反動で倒れて、驚きと痛さで泣き出してしまった。
男性はすぐさま片膝をつき蘭子を抱き起した。
「申し訳ない…」
美弥の顔を見て男性は頭を下げる。
「こちらこそごめんなさい。この子が急に走り出したりしたから…お怪我はないですか?」
男性の手から蘭子を受け取りながら美弥も頭を下げた。
「俺は大丈夫だけど。…泣かせてしまったね」
美弥にしがみついて大泣きをしている蘭子の頭を撫でながら優しい微笑みを向ける。
その顔が一瞬、幸信と重なった。
「びっくりしただけですから気にしないでください」
「そう?お嬢ちゃんごめんね」
片手を地面について立ち上がろうとする男性に慌てて手を貸した。
一瞬、美弥の顔を見た男性はお礼を言って、美弥の手を取り立ち上がった。
「ありがとう」
「いいえ…では」
美弥は軽く会釈をして、男性に背を向けて歩き出した。