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第33章 三、ヒマラヤ雪ノ下　-　秘めた感情

「愛した男が他の女と一緒にいるのを見て辛くはないのか？憎いとは思わないのか？それさえ思わずに守ろうとするお前が分からん」

「あなたに…分かってもらおうとも思わない…分かるはずもない…好きなだけ私を抱けば良い…」

全てを諦め、弱々しく吐き捨てる。
髪を撫でる手を止めて溜息をつく。

「そんな顔して言っても説得力ないな…今自分がどんな顔しているか分かってるか？」

自分の心を見透かされていると悟った美弥は顔を背けて反対方向に顔を向けた。
そんな美弥を見て、優しく頭をポンポンと叩く。
先ほどの首を絞めた人間と同じとは思えない程、優しい手だと感じた。

「そんなに辛いなら…俺のところにくればいい…辛いことなど忘れさせてやる…」

それだけ告げると、また口をつぐみ、一人酒を飲む。
その横で、美弥は何を思うでもなく目を閉じた。
トクトクトクとお酒を注ぐ音だけが2人の耳に届いていた。

「戯言だな…」

先ほど言った言葉を思い出し、自分をあざ笑う。
その言葉を最後に美弥は眠りの中に落ちて行った。
規則正しい寝息をしている美弥を見つめながら、最後の酒を飲み干し、近くにある布団を体にかけ最後に優しく頭を撫でた。

「全てを手放して楽になれ…美弥…」

優しい目で美弥を見つめていたことを美弥は知ることはない。
その瞳の奥にある悲しみも知ることもなかった。