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狂い咲く花
第39章 四、雛菊 - 平和
「いらっしゃい」ではなく「おかえりなさい」と告げる。
もう他人ではなく家族だった。
葉月は部屋の灯りを消すと、美弥を後ろから抱きしめた。
何をするでもなく、朧月夜に照らされながら、2人の甘い時間だけが過ぎていく。
お互いの温もりを感じられれば、もう言葉などいらない。
身体が交わることは無意味に近い程、心は満たされていた。

初めて、葉月が訪れた日。
父様は何も言わずに美弥に他の部屋で寝るように勧めた。
もちろん、葉月が来ることを前提としての提案でもあり、それに美弥ばかり構う父様、母様に麻耶が苛立ち始め宥める意味合いも含まれていた。
しかし、葉月が来ることを知らない美弥は心がざわめく。
やはり、自分より麻耶の方が大切なのではないかと疑心暗鬼になっていた。
夕食を終えて、手を貸そうとする母様の手を振り払い無言で部屋を出ていった。
何かを感じた母様がその後を追う。
部屋の中からは、美弥のすすり泣く音が聞こえた。
中に入れば、嗚咽を漏らしながら涙を流す美弥が目に入る。
まだ心が不安定な美弥は、ほんの些細なことでも心がぐらつく。
手を差し伸べようとすると拒絶し、感情を剥き出しにする。
それが人間味あふれて母様は喜ばしく思う。
いつも何かを我慢していた美弥が自分の感情のまま生きることがうれしかった。
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