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狂い咲く花
第44章 四、海蘭擬 - 偽りのない心
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「ただいま。美弥」
柱にに寄りかかり、外を見ている美弥に声をかけても葉月を見ることも返事を返すこともない。
それでも毎日同じ言葉をかけ、一日の出来事を美弥に話して聞かせる。
「今日はね。富ちゃんが妹のフミちゃんをおぶってきたんだけどね。勉強中に泣いちゃってさ。他の子供たちが騒ぎだすんだよ。勉強ができないとか言って。そしたら富ちゃんまで泣きだしちゃって…気にせずにまたおいでね。って伝えたけど…来るかなぁ…勉強好きだから来てほしいだけどね…美弥?」
話の途中で美弥は立ち上がり部屋の中に入り、布団の上に寝転ぶ。
「どうした?疲れた?」
美弥は何も言わずに目を閉じた。
葉月は美弥の上に布団をかぶせ頭を撫でる。
その目が優しく美弥を包み込む。
冬から春に変わり季節が移り変わろうとも美弥の心が戻ることはなった。
葉月は午前中は寺に来る子供たちに読み書きを教え、昼からは寺の手伝いをする。
その間、美弥はいつも外を眺めているか眠っているかのどちらかで、人形のように、ただ生きていた。