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狂い咲く花
第52章 四、躑躅(赤) – 愛の喜び
「美弥!!」

大きな声で美弥の名前を呼んでも振り向くことはない。
届かないと分かった葉月は濡れるのも構わず湖の中に入り、美弥を後ろから抱きしめた。

「逝くな!!俺を置いて逝かないでくれ」

いつの間にか葉月の目から涙が零れ落ちていた。
抱き付かれた美弥は身体を硬直させて葉月を見ようとはしなかった。

「お願いだから…もう…俺の前からいなくなるな…俺を一人にするな…」

力強く抱きしめて、思いのたけをぶつけた。

「美弥のいない世界に1人取り残さないでくれ…」

縋るように懇願し、もう一人にはなりたくないと告げた。
抱きしめられている手を美弥は握り返し、ゆっくりと口を開く。

「私を…抱いてください…」

美弥の指先に力籠る。

「愛してるなら…抱いてください…」

「それはっ…」

葉月は言葉を濁した。
大切にしたいと思えば思うほど抱くことは出来なかった。

「っ…やっぱり…汚らわしいですか?…他の人に抱かれた…この身体は汚い…ですか?抱く価値もないですか?」

「違う!!」

美弥を自分のほうに向けさせ、真っ直ぐに美弥を見つめた。

「そうじゃない。そんなこと誰も思っていない。大切だから…美弥の心を一番に考えたいから」

その言葉に美弥は静かに首を振り、儚げな目で見つめて告げた。

「私は…愛する価値もないですか?」
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