この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
山猫と狼
第1章 狼と出遭った山猫
ロイ・フォーヴは、窓から漏れる朝日で目が覚めた。
清々しい目覚めではない。
むしろ、これが夢であってほしいと願うような最悪の朝だった。
「お目覚めのようですね」
慇懃で冷たい男の声が後ろから聞こえた。
「あれだけの戦いで生きているとは、さすが『山猫』ですね。プリンセス」
「山猫」のロイは振り返って男を睨めつけた。
「黒い狼」の異名を持つクロード・ヴォルフが、ロイを見下している。ウルスラ国の、二十五歳の若き国王。
カラスの羽のような美しく不気味な黒髪と、爬虫類のような酷薄な漆黒の眼差し。
少年のような幼さと同時に狡猾さを感じさせる彼の横顔は、冷ややかな美しさを湛えていた。
ロイはクロードの喉笛目掛けて飛びかからんばかりだったが、腕と脚は縄で動きを封じられていた。
「クソッ・・・!」
ロイは激しく身を捩ったが、無駄だった。
王の娘として生まれた誇り高いロイには、このような扱いが非常に屈辱的だった。