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暁の星と月
第3章 暁の天の河
「お招き、ありがとう。お天気にも恵まれて良かったな」
大紋は和かに挨拶する。
「全くだ。…お盆を過ぎると、軽井沢はあっという間に秋風が立って、天候も変わりやすくなるからな」
礼也の言葉に大紋はふと考える。
…夏休みが過ぎたら…。
暁との関係はどうなるのだろうか。

今は同じ屋敷に寝泊まりしていても不思議がられることはないが、東京に帰ったら…。
暁は松濤の縣邸に戻ってしまう。
学校もあるし、なにより暁を溺愛する礼也の眼をどう誤魔化して暁と愛し合えば良いのか…。
なかなかに悩ましい問題を考えながら、暁を見る。

礼也にタイを直して貰いながら微笑む暁は透明感に満ち溢れ、とても大紋の腕の中で妖しく乱れる少年と同一人物には見えなかった。
暁が大紋を見る。
はにかみながら笑った暁に小さく笑い返していると、車寄せに静かに一台のメルセデスが滑り込んで来た。

「…いらしたようだ」
礼也は車寄せに近づく。
暁は遠慮勝ちに、礼也の三歩後ろに付き従う。

下僕が恭しく車のドアを開く。
…中からまず最初に降り立ったのは、鮮やかなガーベラの花のような華やかな美貌の少女だった。
黒く艶やかな黒髪は断髪に切り揃えられている。
高価なシルクの白いブラウス、濃紺の細身のパンツにブーツという美しくも妖しい男装の姿だ。
礼也は和かに少女…麻宮光に手を差し出し、その白く美しい手の甲に西洋式に軽くキスをする。
「…光さん、ようこそお越しくださいました」
「ご機嫌よう、縣さん。本日はお招きありがとうございます」
プリンセスというよりはクイーンのように気高く挨拶する光は、暁が今まで見たことがないほど豪奢で華やかで美しい令嬢であった。
暁は、気後れしながらも差し出された美しい手を取り握手をする。
「…初めまして。暁です。よろしくお願いいたします」
光は暁を見た途端、ぱっと好奇心一杯に瞳を輝かした。
「まあ、なんてお綺麗な弟様なのかしら!…縣さんの弟様はちょっと綺麗なお嬢様など較べものにならないくらいに美形でいらっしゃると風の噂でお聞きしていたから、お眼にかかるのを楽しみにしていたの。…噂に違わぬお美しさだわ」
歯に衣着せぬ表現にたじろぐ暁だが、決して悪い印象は持たなかった。
貴族の令嬢は本音で話すことは決してしない。
だが、光は真っ直ぐに自分の言葉で話そうとする性格らしい。
暁は寧ろ、光に好感を持った。
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