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暁の星と月
第3章 暁の天の河
恥じらいの余り返答に窮している暁の代わりに礼也が答える。
「ありがとうございます。光さん。暁は光さんより一つ年下なだけですから、仲良くしていただけたら嬉しいです」
光は蠱惑的に微笑み、礼也を見上げた。
「もちろんよ。私は美しい人が大好きですもの」
礼也はそのまま、大紋を紹介する。
「私の大学時代からの親友の大紋春馬です。会社の顧問弁護士をしてもらっているのです」
大紋は洗練された仕草で光の手を取り、くちづけする。
ロンドンに留学していた彼は、欧州の社交には慣れているのだ。
礼也と並んで同じことをしても様になる男は滅多にいない。
暁は晴れがましく大紋を見つめた。
二人が如才なく愉しげに会話をしていると、車からもう一人の令嬢が降り立った。
礼也が、素早く前に進み出る。
「梨央さん、ようこそお越し下さいました」

暁は眼を見張る。
白い大きなつばの帽子に透けるチュールを掛け、ふわりと顎の下で結んでいる…。
小さな白い貌には黒目勝ちな大きな瞳が輝き、玻璃のように繊細に整った鼻筋、形のよい唇は珊瑚のように可憐な色をしていた。
白いオーガンジーのドレスは繊細なレースが施され、まるでお伽話に出てくる王女様のようだ。
手足はほっそりと長く、日本人離れしたスタイルに成長しているのが見て取れた。

…つまり、目の前に現れた北白川梨央はその場にいる全員が息を呑むほど気高く美しかったのだ。
礼也は愛しげに、梨央の手を取り甲にキスをする。
梨央ははにかみながら、礼也を見上げる。
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」
美しい唇から溢れるのは鈴を転がすように美しい声だった。
少女から成長しつつある狭間の稀有な儚いまでの美しさに暁は、やはり梨央は礼也に相応しい女性だと改めて感じ入り、それが胸の奥底に切ない痛みを与えた。
そしてそんな自分を諌めるように首を振る。

梨央は礼也と、礼也に紹介された大紋にも笑顔で挨拶をする。
大紋とも初対面ではないので、安心感があるのだろう。
暁は和やかな皆の様子にほっとし、四人の後に付いてホールに向かう階段を登りかけたその時、メルセデスから最後に降り立った人物の姿を見て、思わず小さく声を発していた。
「…月城さん…!」
その声に正装姿の北白川伯爵家の執事、月城が暁を振り仰ぐ。
そしてその怜悧に整った美貌に穏やかな微笑みを浮かべ、優雅にお辞儀をした。

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