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暁の星と月
第3章 暁の天の河
その日、北白川伯爵家の第二執事、月城は客間の接待を任されていた。
第一執事の橘は談話室の接待だ。

無駄のない、しかし優雅な身のこなしで中に入り、下僕達の動きに不備がないか見渡す。
夫人達は思い思いのソファに座り、お喋りとお茶に興じている。
…ふと、月城は着飾った貴族の子弟達がバルコニーの方を見ながら、ひそひそ話しをしているのが目に付いた。
ゆっくりと近づく。
…バルコニーの柱に手を掛けながらぼんやりと庭を見つめている1人の美しい少年の姿が目に留まる。

…あの方は…縣家に最近引き取られた礼也様の弟君だ。
到着した時に、礼也が伯爵に紹介するのを月城は見ていた。
思わず目が奪われるように美しく、儚い風情の少年だった。

…あの弟君は妾腹らしいよ。愛人の母親が亡くなり、路頭に迷いそうになったのを縣様が引き取られたらしい。
情報通の下僕長が耳打ちしてきた。

…そんな事情は微塵も感じさせないほど、美しく気品に満ちた正装姿であった。
…優しい縣様らしいな…
きっと、弟君の為に熱心に礼儀作法を仕込まれたのだろう。
月城は温かい気持ちになった。

…その弟…暁が1人で寂しげにバルコニーに佇んでいた。
子弟達は、遠巻きにして彼に話しかけるものはいなかった。
母親達からそれとなく、暁の出自に関する噂を耳にしているのだろう。
子供はある意味残酷だ。
自分達とは異質な出身の暁に無邪気に近づくことができないのだ。
…それは、暁の美貌にも原因があるのではないかと月城は思った。
子供は本能的に自分と異なるものに警戒する。
暁のあまりにも美しい美貌は、子供にはどこか禍々しく感じられるのではないか…。

そしてそんな自分を暁自身も敏感に察知し、皆に気を遣わせないように、バルコニーへと身を潜めているのだろう。
月城はゆっくりとバルコニーに近づき、驚かせないように静かに声をかけた。
「…暁様…」
はっと我に返ったように暁が振り返る。
近くで見ると、彼がどこか不吉なまでに類稀な美貌の持ち主だということがはっきり判る。
黒目勝ちの大きな瞳はやや潤んでいて、男の月城が見ても落ち着かない思いにさせるものであった。
「…失礼いたします。この屋敷の第二執事の月城と申します」
優雅に一礼する月城に、暁は慌てて礼を返した。
「勝手にバルコニーに出て、ごめんなさい…」
小さな声で詫びる様がいじらしい。



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