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暁の星と月
第3章 暁の天の河
…遠くで蜩が鳴いている。
暁はまだ夢うつつのまま、ぼんやりと瞼を開いた。

蜩の鳴き声は、兄に連れられ訪れた軽井沢の別荘で14の夏に生まれて初めて聞いた。
東京の下町育ちの暁は蝉の鳴き声は油蝉くらいしか聴いたことはなかった。
だからその声がまさか蝉だとは思わずに、礼也に聞いてひどく驚いた。
蜩のもの悲しげな鳴き声はまるで綺麗な子守歌のようで、いつまでもうっとりと庭に佇み、聴き入っていたものだ。

…高原特有のさらりとした湿度のない、やや肌寒く感じるような風が頬を撫でた。
薄闇の中、暁は一階の和室の褥にきちんと寝かされていた。
額には冷たいタオルが置かれている。
肌は清潔に拭き清められ、さらりと乾いていた。
そして清潔な夜着を着せられていた。
…春馬さんだ…。

まだ未熟な暁は、いつも激しい性交の後の絶頂のたびに意識を失ってしまう。
大紋は、暁の身体が人一倍感じやすいからだと愛おしげに言ってくれるが、いつも事後の処理を全て大紋に任せてしまうのが申し訳なく、また恥ずかしくて堪らない。
身体の奥に放たれた夥しい量の精も、巧みに大紋によって始末されているのだ。
一度、意識を取り戻した暁を抱きしめながら、熱い口調で囁いたことがある。
「…君が女の子だったらと思うことがあるよ…」
やはり大紋も同性ではなく女性が良かったのかと、寂しく思った矢先、男は熱い眼差しで暁を見つめた。
「…君が女の子だったら、僕のお嫁さんに出来るからね…。…もし反対されたら、こうやって君の中にたくさん射精して…懐妊させてしまえるのに…そうしたら、僕だけのものに出来るのに…」
常軌を逸したような言葉に暁の背筋がぞくりと震えた。
けれど、大紋の端正な貌には暁への哀しいまでの執着と…そして限りない情愛があった。
だから暁は大紋を厭う気にはなれない。
寧ろ、その狂気まで感じさせる言葉に切なく傾倒してしまう。
「…君を僕だけのものにしたい…」
強く抱きしめる男に暁は呟く。
「…僕は春馬さんのものですよ…」
大紋は優しく…しかし、寂しげに笑った…。

…春馬さんはどこかな…。
暁はゆっくりと身体を起こし部屋の障子を開けて、薄闇に包まれた庭を見渡した。



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