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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
「…男爵様と暁様は随分仲良しのご兄弟なんですね」
暁を慈しみ深い表情で見つめていた礼也を思い出しながら呟く。
二十歳の弟に対してまるで甘やかに優しく見ていらしたっけ…。
下僕長の植田が仲村を大広間の入り口へと促しながらやや声を潜め答える。
「…お二人は腹違いのご兄弟だからな」
「…え?」
「暁様は大旦那様とここに勤めていたメイドとの間に出来た隠し子さ。…メイドは怒りに触れた大奥様に屋敷を追い出されて、そのメイドが亡くなって路頭に迷いそうになっていた暁様を旦那様が引き取られたんだ。…あれからもう6年か…」
「…そうだったんですか…。旦那様も大層お美しい方だけれど暁様とはお顔が似てないなと思っていたんです」
…礼也様は西洋のシネマ俳優のような雄々しい美男子だが、暁様は谷間の百合のような静謐さを湛えた中性的な美青年だ。
…その美貌にどこかひんやりした艶かしさを感じてしまうのは俺がおかしいのかな…。
若い仲村はやや悩む。
「旦那様は暁様をまるでご自分の子供のように大切に、時には厳しくお育てになられたからな。お陰で暁様は名門星南学院に入られて、二年前には帝大に首席で入学された。14歳から始められた馬術は障害馬術で入賞されたほどの腕前だし…あの美貌だ。社交界ではご令嬢達に大人気らしいよ。だから今夜も名門貴族や大富豪のお嬢様方のご列席の多いこと…ご婦人方のお世話に手が足りないってメイド長が悲鳴をあげていたよ」
長年屋敷に勤めている植田は情報通だ。
「…へえ…暁様は凄いですね…」
「引き取られた時は、学校にも通えていないほど貧乏暮らしをされていたからな。暁様は大変に努力されたと思うよ。でも、異母兄弟の暁様を偏見もなく受け入れられて、愛情を惜しみなく注がれた旦那様は大人物だよ。…普通なら妾腹の弟君など、寧ろ邪険にされていても不思議はないからな」
「…確かにそうですね」

「さあ、噂話はここまでだ。広間に入ったら下僕は私語は一切してはならない。…いいな?仲村」
いつの間にか背後に立っていた執事の生田に厳しい声で諌められる。
「は、はい!」
仲村は慌てて頷く。
生田が重々しい扉を開く。
眩いシャンデリアの灯り、沢山の着飾った紳士、淑女達、華やかなドレス、高級な燕尾服…
絵に描いたような豪華絢爛な夜会風景に目が眩む。
生田が声をかける。
「さあ、行きなさい。粗相のないようにな…」


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