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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
暁の二十歳の誕生日会は沢山の来賓を招き華やかに開催されていた。

今日の主役の暁と、彼を側で保護者のように見守る礼也を、大紋は少し離れた場所から見つめていた。
礼也の交友関係は広い。
今はどうやら海軍大臣夫妻に暁を紹介しているらしい。
礼也がパリ出張の折出席した夜会で、フランス大使とコミュニケーションが上手く取れずに困っていた海軍大臣の通訳を買って出たことが縁で仲良くなったらしい。
弟の暁も如才なく紹介しているのは、何れ暁が縣財閥の中枢に加わった時に、暁のコネクションが多いほど有利だからだろう。
頭脳明晰で賢く、社交マナーも非の打ち所がない暁だが、生来の大人しい性格からなかなか他人と交わることだけは苦手らしい。
そんな暁の為に、礼也はわざわざ盛大な誕生日会を開き、政界、財界、軍部のお偉方まで招いて暁と引き合わせようとしているのだ。
…礼也らしいな…。
はにかみながらも一生懸命挨拶する暁を見つめながら大紋は思わず微笑む。
…二十歳になってもあの透明感のある美しさは変わらないな…
いや…
大紋はバカラのグラスのシャンパンを飲み干す。
…その繊細な硝子細工のような美しさと、夜に咲く蓮の花のような色香は増すばかりだ…。
暁を見ていると物狂おしい思いに囚われるのも、あの頃より益々深くなっている…。
大紋は密かに溜息を吐く。

海軍大臣と話している暁が、大紋の熱い眼差しに気づき、その美しい瞳だけで仄かに微笑んだ。
…それは、恋人にだけ見せる密やかな合図でもあった。
大紋は表情を緩める。
微かに頷いてみせた時、背後から華やかな声が響いた。

「…あ〜あ…目で合図なんてしちゃって、嫌らしいったらありゃしない。…相変わらず仲睦まじいご様子ですね。今宵はおめでとうございます。大紋先生」
ちらりと振り返る。

…ここ数年でまた背が伸びたのではないか。
すらりとした長身は、大紋と同じくらいだ。
やや明るい髪色、肌は西洋人のそれのように透けるように白く、その鳶色の瞳は相変わらず人を喰ったように笑っていた。
…暁の星南学院時代の馬術部の上級生、風間忍だ。
「ご機嫌よう、風間くん。相変わらずお元気そうでなによりだ」
大紋は紳士らしく握手を求める。
「大紋先生も相変わらずですね。…いや、男振りに磨きがかかりましたね。…翳りのある色気が出てきた」
風間が値踏みするように大紋を見てにやりと笑う。

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