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暁の星と月
第5章 後朝の朝
「…あ…」
喘ぐようなか細い声で狼狽える暁に、大紋は朝から劣情を催した。
心配したように礼也が暁の首すじに目をやる。
「…どこ?見せてみなさい」
「…や…だ、大丈夫です…」
甘く抗う声が誘うように聞こえ、大紋は逆効果だったかと舌打ちしたい気分になった。
「だめだよ。冬の虫は毒素を持っているんだ。化膿したら大変だからね。…じっとしてよく見せて…」
礼也が暁のうなじをまるで愛撫するように丁寧に撫でさする。
「…あ…ん…っ…くすぐったい…兄さ…ん…」
「…我慢して…そう…いい子だから…」

…声だけ聞いていたら、秘め事の最中みたいじゃないか!
大紋は頭を抱えたくなった。

「…ここかな…ああ、確かに赤く腫れている…」
「…あ…っ…ん…」
「痛い?」
「…い、いいえ…」
…当たり前だ。僕がつけた噛み跡だ。
だが痛くしたことなんて一度もない。
暁が快感を覚えるぎりぎりのところで噛むのを止めているのだから。

礼也は暁のきめ細やかな美しい肌を愛でるようにいつまでも撫でながら、首を捻る。
「…虫刺されの痕じゃないみたいだな…まるで、噛み跡みたいだ…」
暁がびくりと身体を震わせる。
「…あ…あの…」
追い詰められた表情の暁に、大紋は口を開く。
「…ああ、あれだよ。…昨日、風間くんの家の犬に甘噛みされたと言っていたじゃないか。…その時の痕だろう」
ほっとしたように暁が頷く。
「…は、はい。そうでした。…忘れていました」
礼也は納得したようにうなじから手を離し、暁の髪をくしゃくしゃ撫でる。
「そうか。犬か。…大型犬?」

暁は髪を撫でられ、うっとりとしながら答える。
「…ええ。超大型犬です。…僕のことが好きみたいで、何かというと噛んでくるんです。…強引だし、すぐに暴走するんですけど…すごく優しくて可愛いくて…僕も大好きなんです」
そう言うと、ちらりと艶めいた眼差しで大紋を見遣った。
「…暁…」
大紋は感動に胸が一杯になる。

「そうか。それは良い犬だな。私も今度会わせて貰おう。…さて、冷えて来たな。中に入ろう」
礼也は二人を促し、生田に手荷物を預けると一足先に玄関ホールに脚を踏み入れる。

暁と大紋は束の間、二人きりになった。
暁が色めいた瞳で大紋を睨む。
「…もう…!心臓が止まるかと思いましたよ」
大紋はしゅんとして、詫びる。
「…ごめん…礼也に嫉妬したんだ…」




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