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暁の星と月
第1章 暗闇の中の光

生田はそれから庭園をゆっくりと案内し、最後に暁を温室にいざなった。
中に入った途端に、見たことがない景色が暁の目の前に広がっていた。
紅、白、薄桃色、淡い藤色、黄色…。
華やかな色彩の洪水だ。
色とりどりの薔薇の花の競演である。
そして、何百株もある薔薇の花からは嗅いだことがないような夢のように芳しい香気が漂い、暁は思わず溜息を吐いた。
生田は穏やかに説明する。
「こちらには世界各国の薔薇の株がございます。一年中、様々な薔薇の花が楽しめるように、庭師が丹精込めて育てております」
「…すごい…まるで…天国みたいだ…」
…天国があるなら、こんなところなのだろうな…。
暁はうっとりと思った。
「こんなに美しい花を、初めて見ました」
生田は微かに微笑む。
「それはようございました。…旦那様が喜ばれますよ」
「…あの、この薔薇の花は兄さんの趣味なのですか?」
大層大掛かりな手がかかっている温室だ。
物を知らない暁でも、それは分かる。
生田は少し考え、さり気なく答えた。
「…旦那様が後見人をされているお方が薔薇がお好きで、それでわざわざ外国から株を取り寄せ、難しい栽培の場合は庭師を現地まで派遣し、この温室をお造りになりました」
「…こうけんにん…?」
聞きなれない言葉だ。
「…旦那様が陰日向にお世話をされている方です。北白川伯爵令嬢様でいらっしゃいます。…それはそれはお可愛らしくお美しいお嬢様ですよ」
暁の胸がちくりと痛む。
…お美しいお嬢様…伯爵令嬢…。
そうか…。
兄さんにはそんなに美しく可愛らしい素敵な方がいらっしゃるのか…。
…それはそうだよね…兄さんは大人で、しかもあんなに美しく男らしく優しくて…とにかく素晴らしい方なんだから…。
暁は自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
そして、少しでもその女性を羨ましく…また兄に、想いを掛ける人がいることを淋しく思った自分に自己嫌悪を覚えた。
…兄さんの素敵な方のことをそんな風に思うなんて…。
暁は自分の醜い考えを振り払うように首を振る。
そして、手に触れてはならぬような高貴な薔薇の花々を改めて見回しながら、独り言のように呟いた。
「…兄さんにふさわしいこの薔薇の花のような方なんでしょうね、その方は…」
中に入った途端に、見たことがない景色が暁の目の前に広がっていた。
紅、白、薄桃色、淡い藤色、黄色…。
華やかな色彩の洪水だ。
色とりどりの薔薇の花の競演である。
そして、何百株もある薔薇の花からは嗅いだことがないような夢のように芳しい香気が漂い、暁は思わず溜息を吐いた。
生田は穏やかに説明する。
「こちらには世界各国の薔薇の株がございます。一年中、様々な薔薇の花が楽しめるように、庭師が丹精込めて育てております」
「…すごい…まるで…天国みたいだ…」
…天国があるなら、こんなところなのだろうな…。
暁はうっとりと思った。
「こんなに美しい花を、初めて見ました」
生田は微かに微笑む。
「それはようございました。…旦那様が喜ばれますよ」
「…あの、この薔薇の花は兄さんの趣味なのですか?」
大層大掛かりな手がかかっている温室だ。
物を知らない暁でも、それは分かる。
生田は少し考え、さり気なく答えた。
「…旦那様が後見人をされているお方が薔薇がお好きで、それでわざわざ外国から株を取り寄せ、難しい栽培の場合は庭師を現地まで派遣し、この温室をお造りになりました」
「…こうけんにん…?」
聞きなれない言葉だ。
「…旦那様が陰日向にお世話をされている方です。北白川伯爵令嬢様でいらっしゃいます。…それはそれはお可愛らしくお美しいお嬢様ですよ」
暁の胸がちくりと痛む。
…お美しいお嬢様…伯爵令嬢…。
そうか…。
兄さんにはそんなに美しく可愛らしい素敵な方がいらっしゃるのか…。
…それはそうだよね…兄さんは大人で、しかもあんなに美しく男らしく優しくて…とにかく素晴らしい方なんだから…。
暁は自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
そして、少しでもその女性を羨ましく…また兄に、想いを掛ける人がいることを淋しく思った自分に自己嫌悪を覚えた。
…兄さんの素敵な方のことをそんな風に思うなんて…。
暁は自分の醜い考えを振り払うように首を振る。
そして、手に触れてはならぬような高貴な薔薇の花々を改めて見回しながら、独り言のように呟いた。
「…兄さんにふさわしいこの薔薇の花のような方なんでしょうね、その方は…」

