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暁の星と月
第6章 その花のもとにて
暁は洗練された男性の魅力に満ちた大紋の姿に、改めて感慨を覚える。

一方、大紋は目の前の秘密の恋人の麗しい姿に目を細める。
…今日の暁は、上品な明るいグレーのジャケットに白いシャツ、紺色の水玉模様のリボンタイという若々しい洒落たスタイルだ。
暁の中性的で透明感のある美貌は春の明るい陽光の中、輝きを放っていて、さっきからちらちらとこちらを熱い眼差しで見る者の中に若い男性も幾人かいる。
大紋は晴れがましいような心配なような…複雑な気持ちになる。

…暁を見つめる時はいつもそうだ。
そのやや長めの艶やかな黒髪、真珠のように輝く白い肌、優しい形の優美な眉、長く濃い睫毛、射干玉の闇のような黒い瞳、すんなりと整った鼻筋、今が盛りの薔薇の花弁のような唇…
暁の身体の中で知らないところは何一つないというのに、会うたびに胸が苦しくなる程の焦燥感を感じずにはいられない。
…暁の身体を全て奪ったはずなのに、自分の恋人のはずなのに、ふとした弾みでどこかに消えてしまいそうな…この腕の中からすり抜けてしまいそうな、不安定さと儚さはいつまでも暁に纏わり付いていた。

だから大紋は雪子が他の友人に声をかけられ、そちらに向き直っている間に暁の細い腰に触れ、桜貝のような耳朶に囁く。
「…綺麗だよ、暁…ここにいる誰よりも…」
暁はその美しい瞳を見開き、目元を朱に染める。
「…今夜、武蔵野の家に来られる?」
「…今夜は…大学の友人と食事の約束が…」
困ったように告げる暁のチーフを直す振りをして近づき、命令する。
「断って。…どうしても君と過ごしたいんだ…。最近、ちっとも会えないじゃないか…」
「だって…ゼミ合宿や馬術大会の練習で…」
抗議する暁の手をさりげなく強く握る。
「…断って…僕が好きなら…」
暁は何か言いかけたがそれを諦め…小さく溜息を吐くと頷いた。
「…行きます…」
大紋はもう一度手を握りしめる。
「ありがとう…」
怒ってはいない証拠に暁の瞳は潤み、少し拗ねたように大紋を睨んだ。

「いやあねえ。お兄様ったら。秘密のお話?」
友人と別れた雪子がこちらを向き直る。
「いや、お前の悪口だ」
大紋が揶揄うように笑う。
「お兄様ったらひどいわ!」
「身から出た錆だな」
「もう!お兄様の意地悪!」
兄妹のやり取りに暁は微笑む。

…ふと逸らした視線の先に、礼也と梨央がいた。
暁は思わず見つめる。




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