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暁の星と月
第6章 その花のもとにて
暁は後をつけているのが二人に気づかれないように間隔を空けながら、静かに進む。
談笑する賑やかな人々の間を潜り抜けながら、二人の後を追う。
梨央の白く長いドレスの裾が風にひらひらと舞う。
礼也は梨央に合わせてゆっくりと歩む。
時折、梨央の顔を愛しげに見下ろし、微笑みかける。
暁の胸はちりちりと焦がしたように痛む。

…程なくして、礼也は梨央を蔓薔薇の見事なアーチの下に佇ませ、先ほどとは打って変って真剣な思いつめたような表情で向かい合い、熱心に何かを語りかけていた。

暁は、近くのライラックの生垣に身を潜め、そっと二人の様子を伺う。
…何を話しているのだろうか…。
二人までには少し距離があり、会話の内容までは届いてこない。

礼也の熱心な語りかけに、梨央は最初は暫く俯いていたが、やがてゆっくりと顔を上げると、恥ずかしそうに微笑みながら、小さく頷いた。
その途端、礼也の端正な顔が輝き、梨央の言葉を確認するかのように、肩を抱きしめながら尋ねる。
梨央は再び礼也を見上げると、真剣な貌で頷き、微笑んだ。

…次の瞬間、礼也は梨央の肩を引き寄せ、その華奢な顎を掴むと、唇を重ねた。
驚いた梨央の華奢な手から、繊細な白い日傘が転げ落ちる。
暁は咄嗟に手で口を覆った。

礼也のくちづけが露わになる。
最初は優しく…次第に情熱的に深く濃いものになっていく。
身を硬くしていただけの梨央も礼也の成熟し手練れた甘く情熱的なくちづけにより、次第にその身体を溶かしていった。
梨央のまだ誰も触れたことのない青い果実のような唇を、礼也は優しく…しかし大胆に奪い、優雅な野蛮さで全てを食んでいく…。

固唾を飲んで二人の濃厚なキスを見つめていた暁の背後で僅かな足音が聞こえた。
はっと振り返ると、月城が蒼ざめた悲痛な表情で、二人を食い入るように見つめていた。

…ああ…と、暁は全てに合点がいった気がした。
月城のストイックさ、孤高さ、近寄りがたさ…
それら全ては梨央への報われない恋ゆえのものだったと…。

月城がゆっくりと暁を見る。
暁の哀しげな眼差しを見て、彼は眼鏡の奥の眼を見張る。
彼もまた一瞬で理解したのだ。
…暁が誰に恋い焦がれていたのかを…。

暁は哀しみの表情のまま微笑んだ。
「…二人とも…失恋だね…」
「…暁様…」
暁は何かを言いかけた月城を残して、静かにその場を後にした。







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