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暁の星と月
第6章 その花のもとにて
気がつくと、暁は温室の片隅の椅子に座り込んでいた。
温かな温もりと見たことがないほどに鮮やかな異国の花に囲まれ、ぼんやりとする。
そして、とりとめのないことを考える。
…この温室に来たのは何年ぶりだろうか…
前に来た時には…
確か、月城がいた…

…兄さんが梨央さんにキスをしていた…。
梨央さんの後見人をしている兄さんが、あんな風なキスをしていたということは…
…それは、何を意味するか…
もう暁には判っていたのだが、自問自答してみる。

「…暁?…暁、いるのか…?」
はっと貌を上げると、兄の礼也が入り口に佇んでいた。
「…兄さん…」
礼也は、暁の貌を見て心配そうに声をかける。
「大丈夫か?…具合でも悪いのか?」
暁は慌てて首を振る。
「…いいえ。何でもありません…ちょっと人いきれで疲れてしまったので、休憩していただけです」
「そうか…。それなら良かった…」
ほっとする礼也に、暁は恐る恐る尋ねる。
「…あの…兄さんは…何かあったのですか?」
途端に礼也の貌が輝き出した。
その端正な彫像めいた貌に、少し照れたような笑みを浮かべ、暁の手を握りしめた。
「…実は…今、梨央さんにプロポーズしたんだ」
暁の手が僅かに震える。
「…え…?」
「…結婚して欲しい…と。梨央さんを一番間近で守る人になりたいと…」
「…お、お返事は…?」
小さな声はやや震えていたが、興奮している礼也は気づかない。
「…お受けしますと、言ってくれたよ。…私の妻になってくれると…まだ信じられない…!」
少年のように初々しい表情で語る礼也を、暁は綺麗だなとぼんやりと見る。

満面の笑みを作り、暁は明るい声で礼也に祝いの言葉を述べる。
「…おめでとうございます、兄さん。…良かったですね。…僕はずっと思っていました。お二人が結ばれるといいと…。兄さんと梨央さんはとてもお似合いです」
礼也は嬉しそうに暁を見下ろす。
「ありがとう、暁。…誰よりもまず、お前に報告したかったんだ。…お前は私の大切な弟だからな」
「嬉しいです。兄さん」

…いつかこんな日が来ることは判っていた。
兄が梨央を後見人という立場を超えて、愛し続けていることを。
梨央の成長をずっと辛抱強く待ちわびていたことを。
…判ってはいたけれど…。
心に穴が空いたような寂寥感に耐えていると、礼也が手を差し出した。
「…さあ、おいで。皆のところに戻ろう」
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