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暁の星と月
第6章 その花のもとにて
伯爵の感動的なスピーチ、鳴り止まない拍手、口々にお祝いの言葉を掛けにゆく来賓たち…。
暁はそれらを傍観者のように眺めていた。
その無表情な横顔を大紋が食い入るように見つめる。

雪子が興奮したように、
「まあ!なんてロマンチックなの!縣のお兄様と梨央さんがご結婚なんて!梨央さんにお祝いを申し上げて来なくでは」
いそいそとドレスをたくし上げ、人々に囲まれ祝福を受ける礼也と梨央の元に急ぐ。

ぼんやりしている暁の手が不意に痛いほど握りしめられ、強引に引かれる。
はっと傍らの男を見上げる。
「…痛いです、春馬さん…」
大紋は厳しい貌をしたまま、力を緩めようとしない。
暁をその場から引きずるようにして連れてゆく。
「離して…」
小さな声で抗う暁に
「来るんだ」
とだけ声をかけ、庭園をまっすぐに突っ切る。
…すっかり人気がなくなった庭園の温室へと続く小径を、暁の手を強く引きながら大紋は無言で足早に歩く。
「…離して…!どこに連れて行く気ですか?」
大紋はその冷たく研ぎ澄まされた端正な貌でちらりと暁を一瞥だけして、歩みを止めずに進む。
「…春馬さん!」

温室の扉を荒々しく開ける。
大紋はそのまま、暁を連れ回廊を進む。
「…春馬さん!何なんですか⁈」
突き当たり奥の薔薇の茂みへと暁を突き飛ばす。
柔らかな薔薇の花や蔓や葉がクッションとなり、暁を受け止める。
「…春馬さん!」
美しい瞳に抗議の色を浮かべ気色ばむ暁の身体を、蔓薔薇が這う煉瓦の壁に押し付ける。
「…自分の胸に聞いてみろ」
「…⁈」
大紋は怒りを込めた眼差しで、暁を睨めつけるとそのほっそりとした顎を砕けるほど掴み、吐息がかかるほど近づく。
「…いつまで礼也を想えば気が済むんだ⁈」
暁の美しい瞳が見開かれる。
「…礼也は君を愛さない…決して…!いい加減に諦めろ!」
カッとなった暁は渾身の力を振り絞り、大紋を突き放す。
「…貴方に…関係ないでしょう⁈」
そんな暁の身体など、楽々に封じ込めてしまう大紋は尚一層、暁を羽交い締めにする。
「関係ない⁈…」
…ふっと大紋が冷たく笑う。
そして静かに怒りを滾らせた眼差しで、暁を見つめる。
「…君は誰のものなのか、今一度分からせる必要があるようだな…」
そう言い放つやいなや、大紋は噛み付くように激しいくちづけで暁の息の根を止めるかのように、その柔らかな花のような唇を貪り始めた。


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