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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
暁が手掛けた洋食屋、ビストロ・アガタの開店日を迎えた。
店は浅草の仲見世にほど近い賑やかな繁華街に構えた。
暁はやや緊張しながら、店の扉を押し開ける。
扉に付けたベルが鳴る。

暁の貌を見た縣商会の従業員たちが飛び出して来て、歓声を上げる。
「坊ちゃん!いよいよ、開店日じゃねえ!」
「坊ちゃんの手掛けた初めての店たい!さあ、よう見んしゃい!」
従業員の一人がにこにこしながら暁の手を引っ張る。
7人の小人ならぬ7人の従業員たちは暁の大ファンだ。
暁が貌を出すところには先回りして待ち構えているのだ。

暁は店内を見渡した。
厨房からは深みのあるブイヨンスープの香りが漂う。
二階は宴会やパーティも出来るゆったりとした広間、一階はテーブルが10席ほどのこじんまりした家庭的な洋食屋だ。
…ペパーミントグリーンと白を基調にした壁紙、テーブルと椅子は飴色、壁にはロートレックの絵画が飾られ、蓄音機や自動ピアノなど、まだまだ庶民には珍しいものが並べられている。
ハイカラな内装や装飾品で彩られていた。
普段、西洋文化に触れたことがない庶民の人たちに食事をしている間に、西洋のロマンチックな気分に浸ってほしいという暁の願いからだった。

「…内装も間にあったね。うん、凄く綺麗にできている」
暁は嬉しそうに笑った。
「坊ちゃんの為やけん、腕利きの内装業者に突貫工事をさせたったい!」
従業員の1人が胸を叩く。
「ありがとう、みんな。みんなのおかげだよ」
7人の従業員は暁の美しい笑顔にうっとり見惚れる。
皆は暁の笑顔が大好きだ。
いつもは寂し気な美貌が、笑うと花が咲いたように明るく華やかになるからだ。
…最近、坊ちゃんがどことなく元気がなくて、時折ぼんやりしていたのが皆は気がかりだった。
だから、今日の開店日は皆で力を合わせて、坊ちゃんを喜ばせよう!と、7人の小人たちは恐喝または恫喝ギリギリの手を使い、業者を急がせ、完璧な開店準備を終えて見せたのだ。

あと、一時間ほどで開店時間だ。
暁が新しく雇ったギャルソンの制服の着付けを見てやっていると、店のドアが軽やかな音を立てて開いた。

振り返った暁は眼を見張る。
「…暁様、開店おめでとうございます」
そこには質の良いスーツに身を包み、大きなカサブランカの花束を抱えた月城が笑顔で佇んでいた。
「月城…!来てくれたのか⁈」
暁が駆け寄る。





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