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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
それから暁は、ヴーヴクリコのロゼシャンパンをお祝いに…と振舞ってくれた。
優雅な所作で、シャンパングラスにシャンパンを注ぎながら、雪子や絢子と和やかに会話する暁は完璧な美しさだった。

シャンパンを注ぎ終わり、しなやかにその場を後にする暁を絢子は無邪気に褒める。
「…暁様は本当にお美しい方ですわね。…あの方の前に立つと自分が恥ずかしくなるほどですわ…」
「ええ、そう。…まるで玻璃で出来た美しい王子様みたい…。…私は今も暁様が好きよ。…もう振り向いてもらおうなんて思っていないけれども…ね…」
雪子は寂しげに笑う。

…あの美しい…しかし捉え所のない謎を秘めた青年を自分は愛していたのだと…
いや、今も愛しているのだと、大紋は心秘かに思った。

…愛しているのに…
今日は酷い仕打ちをしてしまった。
故意ではないとはいえ、暁を酷く苦しめてしまったことには違いがない。
美しい笑顔の下で、彼はどれだけ傷ついたことだろう。
そう思うと、胸が激しく痛む。
わざわざ自分達の為に特別なコースを作ってくれ、最後は絢子の為にマカロンを使ったデザートまでプレゼントしてくれた。
「…お二人のお幸せを心より願います」
そう言いながら、暁は大紋を見ると仄かに笑った。

暁が通り過ぎた後に漂う異国の白い花のような薫りを嗅ぎ、身体の奥底から湧き上がる熱い欲望をまざまざと知らされる。
…絢子は愛おしいと思う。
彼女は淑やかで美しく、素直な良い娘だ。
きっと従順な良き妻、良き母になるだろう。
彼女を妻にする人生はおそらく幸せと呼べるものに違いない。
…だが…
大紋は暁と別れてから、毎晩彼を夢に見る。
夢の中の彼はいつも哀しげな微笑を浮かべている。
…そして、暁との爛れるような濃密な愛と欲望の日々を度々思い出すのだ。
あの美しい青年と奇跡のように愛しあったあの日々を…。
…自分はまだ彼を少しも変わらずに愛していると…
暁に会い生身の彼を見て、その思いは更に強くなる。

食事を済ませ雪子と絢子が先に店を出た刹那、大紋は暁に囁いた。
「今日は済まなかった。許してくれ」
暁は真意が掴めない笑みを浮かべる。
「…春馬さんが謝られることではありません」
「…少し話をしたい。どこかで会えないか?」
暁の長い睫毛が震える。
ゆっくりと首を振り
「…もう二人でお会いすることはありません…」
そう答えて目を伏せたのだ。

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