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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
…1日の喧騒が嘘のように静まりかえった店内で、暁はギャルソンの制服のまま、椅子に座りぼんやりとしていた。
開店初日の店は、大盛況のうちにその日の営業を終えた。
お客達は皆、喜んで新しい西洋料理に舌鼓を打った。
暁が望んでいた決して裕福ではない家族連れが、笑顔で子供たちとオムライスやハヤシライスを口に運びながら嬉しそうに語らっている姿を見て、店を開いて良かったと心底思った。
…色々予期せぬ出来事はあったけれど…無事に開店出来て良かったな…。
暁はふっと笑う。

…春馬さん…
彼のことを考えると、胸が苦しくなる。
料理を運びながら、気になって何度も見た。
大紋は絢子に優しくオードブルを取り分けてやったり、穏やかに話しかけたり…完璧な恋人だった。

絢子は始終大紋を熱い眼差しで見つめ、如何に彼を愛しているかが手に取るようにわかるほどだった。

…二人はもう結ばれたのだろうか…
大紋の逞しく美しい身体が、絢子の小柄だが女性らしい身体を抱く…
想像するだけで、身の内が焼け付くような嫉妬に襲われる。
…その手で、その唇で、僕に愛を語った春馬さんが絢子さんを…
もう、春馬さんは僕のものではないのだから当たり前だ…。
…それが、別れるということなのだ…。
暁はテーブルの上で組んだ手を額に押し当て、息を吐く。
…でも…
春馬さんに快楽を教え込まれたこの身体は…
…彼の熱や昂りを無意識に求めてしまう…
それらを当たり前のように享受する絢子を憎んでしまう…
…僕は…なんて浅ましい…!

「…暁様…」
背後から、静かな…気遣うような声が聞こえた。
はっと振り返る。
「…月城…」
スーツに着替えた整然とした執事姿の月城が佇んでいた。
暁は立ち上がり、微笑みかける。
そして心から礼を述べる。
「…月城、今日は本当にありがとう。開店が大成功したのは、君のおかげだ。…結局、夜まで手伝って貰ったな…すまない」
月城はその端整な貌に静かな微笑みを浮かべ、首を振る。
「…いいえ、暁様のお役に立てて、良かったです」
「今日は…北白川のお屋敷の仕事は大丈夫だったのか?」
「はい。本日はお休みをいただいていましたので」
暁は申し訳なさにため息を吐いた。
「せっかくの休日に…すまなかったね」
月城は真っ直ぐ暁を見つめる。
「私は楽しかったですよ。…皆さんと力を合わせて、お客様に喜んでいただけて…」



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