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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
大紋は控え室の窓から、外の景色を眺めるともなく眺めていた。
鬱蒼と茂る木立の中から白いチャペルが見える。
白いフロックコートの中に着たシャツのカラーを少し緩めるように指を伸ばす。

…挙式は基督教式だ。
西坊城家は代々クリスチャンで、教会での挙式を望まれたからだ。
無神論者の大紋は、すべて西坊城家と絢子の希望に沿うようにした。
はっきり言って、挙式の形式などどうでも良かったのだ。

絢子との婚約を発表してから、あっと言う間に挙式が決まったのはすべて西坊城家の意向だった。
父、西坊城子爵には、大紋の気が変わらない内に愛娘を嫁がせたい思惑があったに違いない。
絢子との結婚を申し込んだ時、西坊城子爵は静かに泣いた。
「…本当にすまない…大紋くん、ありがとう…」
大紋は胸が痛んだ。
…愛娘の自殺未遂…
その娘が恋い焦がれた男が、結婚を申し入れてくれた。
…愛する人を諦めて…
人の良い子爵は、恐らく大紋の心中を慮ったのだろう。

大紋は別に人助けで結婚を決めたわけではない。
…絢子は良い娘だ。
か弱く、繊細で…恐らくは逞しい夫に守られなくては生きてはいけない娘…。
だから自分が守ると決めた。
…彼女をとても可愛いと思う。

…だが…
…愛してはいない…。

大紋はチャペルの前庭に季節外れのライラックを見つけた。
…ライラックか…。

花の想い出はすべて暁につながってゆく。
…花の薫りにむせ返りそうになりながら、我を忘れて愛しあった…。
白く真珠のように輝く美しい青年…。
彼との甘く胸苦しいまでの愛の交歓…。
…暁…!
大紋は堪らずに目を閉じ、深くため息を吐く。

…本当にこれで、良かったのだろうか…。
自分は暁を愛していた。
暁は…
愛してくれていたかは分からない。
けれど、自分を好きでいてくれたとは思う。
…その彼が急に別れを切り出した。
最初は絢子のことを思い、身を引いたのだと思った。
…だがもしかしたら、他に何か理由があったのではないか。
そうでなくては、あんなにも突然頑なに別れようとしないのではないか。

大紋は苦笑混じりに、首を振る。
…いや、例えそうだとしても今更だ…。
賽は投げられてしまった。
…2人の運命は交わらないものだったのだ。

再び窓の外に眼を遣った時、ノックの音が響いた。
大紋はゆっくりと振り返る。










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