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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
高価な絨毯が惜しげもなく敷かれた廊下を男に腕を掴まれ、連れていかれる。
風間は細身に見えて、意外に力がある。
暁は先ほどのくちづけに続き、風間の中の男をまざまざと感じさせられて、胸が苦しくなる。

…突き当たりのスイートルームに、風間は躊躇なく入ると暁を抱き込むように中に入れ、後手に鍵をかける。
広い部屋の奥、キングスサイズのダブルベッドが目に入り、暁は不意に身体を強張らせた。
そんな暁を包み込むように背中から優しく抱きしめる。
「…怖い…?」
暁は小さく首を振る。
「…どうして俺と寝ようと思ったの?」
見上げると、驚くほど近い距離に風間の西洋人めいた端麗な貌があった。
鳶色の瞳は暁が目を逸らすことを許さなかった。
「…大紋先輩を忘れるため…?」
暁の長い睫毛が震える。
答えない暁を風間は咎めない。
しかし、暁の髪を撫でながら、尚も尋ねる。
「…それだけ?」
「…え?」
風間は薄く笑い、そのしなやかな手でジャケットの釦を外し始める。
風間の手が、シャツ越しに暁の身体に触れるだけで、ぞくりとするような衝撃が背筋を走る。
「…こんなに感じやすい身体をして…持て余さない筈がない…」
暁ははっと表情を変えると、風間の腕から逃れようともがく。
風間の仕草は優しいが、決してその腕の力は緩めずに暁を抱きすくめたまま、耳元に囁く。
「…大紋先輩を思って、ずっと貞操を守っていたの?
先輩と別れてから、セックスしてないの…?」
「…やめ…て…」
「…ナンセンスだよ、そんなの。先輩とはもう終わったんだ。操を立てる必要はない」
「…はなし…て…」
なおも抗う暁の両手を捉え、壁に貼り付けるように腕を上げさせる。
風間の鳶色の瞳は笑っているような憤っているような…愛しがっているような…不思議な表情をしていた。
「…さっきは君が誘ったのに?今更嫌なの?」
「…やっぱり…無理です…。僕は…春馬さん以外は…できない…」
首を振る暁の貌を上げる。
「…こんなに欲情していて?…本当は男が欲しくて堪らないんだろう?…先輩と別れて、ずっと独り寝?…そんなに淫らな眼をして…嫌らしい甘い匂いを漂わせて…牡を狂わす…罪な人だ…君は…」
「…ちがいま…す…僕は…」
下から掬い上げるように貌を近づける。
「…自分の欲望に素直になるんだ…そうすれば、君は幸せになれる…」
風間の眼差しははっとするほど、優しかった。

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