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暁の星と月
第2章 新たな扉
大紋のリードは驚くほど上手い。
初めてステップを踏む暁がたどたどしく動くのを優しく滑らかにリードする。
少し余裕が出てきた暁は、蓄音機から流れる美しい音楽に耳を傾ける。
「…これ、なんて言う曲ですか…?」
大紋が暁を優しく見下ろしながら答える。
「ヨハンシュトラウスの美しき青きドナウだよ」
「…ヨハンシュトラウス…すごく綺麗な曲ですね…」
瞳を輝かせながら大紋を見上げる。
そんな暁を眩しげに見ながら
「僕も大好きなんだ。…暁くんはまだあまりクラシックを聴いたことはないだろうけれど、良かったら今度一緒に音楽会に行こう。…それから、歌舞伎はどう?新劇や浅草オペラも一度観ておいたほうがいいと思うよ。…編入してからクラスメートと共通の話題が出来るから…」
暁は思わずくすりと笑う。
大紋が不思議そうな顔をする。
「何か変なこと言ったかな?」
「いいえ。…大紋さんて、優しいなあ…て。すごく細やかで兄さんによく似てるなあ…て」
大紋が苦笑する。
「…そうかな…」
大紋に優しくリードされながら、遠慮勝ちに尋ねる。
「…あの…大紋さんはどうしてそんなに僕に親切にして下さるんですか?…お仕事の後に勉強を見て下さったり、学校のことも…色々と便宜を図って下さったり…。
嬉しいですけれど、何だか申し訳なくて…」
暁の手を握る大紋の手に不意に力が入る。
大紋の脚のステップが唐突に止まる。
急に止まった大紋に付いて行けずに、つんのめるように暁の身体が大紋の胸に飛び込む形になってしまう。
「あ、ご、ごめんなさ…」
慌てて離れようとした暁の身体が、そのまま強い力で大紋の胸に抱き込まれる。
「…大紋さ…ん?」
「…君が…好きだからだよ…」
暁の目が大きく見開かれる。
思わずもがこうとすると、悲痛とも言えるような掠れた低い声と共に更に抱きすくめられる。
「…動かないで…これ以上は何もしない…神様に誓ってもいい…何もしないから…少しだけ、このままでいさせてくれ…」
「…大紋さ…ん…」
大紋の糊の効いたシャツからは礼也とは違う香水の薫りがする。
少し早い鼓動が暁の耳に響く。
「…ごめんね、急にこんなことを言って…。今夜だけだ。明日からはこんなことは二度と言わない…だから…今だけ、僕の話を聞いてくれ…」
大紋は暁が逃げ出すのを恐れるかのように強く抱きすくめる。
暁の胸の鼓動も速くなる。





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