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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
…暁はクリスマスコンサートがお開きになり、ダンスの時間になると、そっと人目につかぬように広間を抜け出した。

弦楽四重奏が奏でるヨハン・シュトラウスの調べと招待客の華やかなさざめきや貴婦人の香水の香りを背に、北白川伯爵家のバルコニーから温室への小径を辿る。

冬空には満月の月が黄金色に輝いていた。
目の前に現れたガス灯に照らされた温室は、まるでお伽話の小さなクリスタルの宮殿のようだ。

…中に入るとそこには正に、地上の楽園が広がっていた。
外は今にも雪が降り出しそうな真冬であるのに、南国の花々が咲き乱れ、バナナの木、椰子の木が生い繁るプロムナードを通り過ぎ…暁は硝子張りの窓際に設置された樅木のクリスマスツリーの前で脚を止めた。

天井に届きそうなほどに高いツリーにはきらきら輝くオーナメントが美しく飾られ、クリスマスイブを華やかに演出していた。
暁は暫し、ツリーを眺めていたがゆっくりと傍らのベンチに腰を下ろし、黒いテイルコートの上着の胸ポケットから一通の外国郵便の封筒を取り出した。

…今朝、届けられたパリからの風間の手紙だ。
嬉しくて何度も何度も読み返した手紙には、一葉の写真が添えられていた。
暁は改めて写真を大切そうに眺める。

…パリの写真館で撮られたものだろうか…。
セピア色のそれには、フロックコートにネクタイをりゅうとして着こなした風間が笑っていた。
クォーターの彼は異国の地に難なくとけ込んでいて、楽しんでさえいるような雰囲気が伝わってきた。
彼の傍らには椅子に腰掛けた百合子がいた。

百合子は髪を洋風に美しく結い上げ、薔薇の花を髪に飾り、耳には煌めくイヤリング、美しく細い首元には真珠のネックレス、そして写真からでもその上質さが伝わってくるような上品なドレスを身に纏い、風間に優しく肩を抱かれ…大層幸せそうに微笑んでいた。
百合子の膝には司が…きちんとしたジャケットに半ズボン、ハイソックス、革靴姿で抱かれていた。
小さな手にはテディベアのぬいぐるみが抱きかかえられ、満面の笑みでポーズを取っていた。
司の愛くるしい姿に、暁はつい笑みを漏らす。

…幸せそうな…ありふれた一家の家族写真がそこにはあった。



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