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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
礼也は婚約解消後も、変わらぬ親愛の情を保ちながら梨央と交流を続けている。
梨央の恋人であり、異母姉妹の綾香とも軽口を叩きながらも仲の良い間柄だ。
女所帯の北白川家を心配し、度々訪れ何くれとなく世話をしている。
今夜のクリスマスコンサートも礼也が陰ながら尽力していたのだ。
「…縣さんは本当にいい人だね。…なんだかごめんね…」
綾香は梨央の手を握りしめながら、ふっと優しい眼差しで礼也を見上げた。
礼也は恭しくお辞儀をして見せる。
「…どういたしまして。…私は美しき薔薇の姫君たちをお護りする花園の番人が性に合っているのですよ」
ユーモアたっぷりに笑った礼也を、暁は大きな人だな…とつくづく思う。
梨央は嬉しそうに綾香と礼也を交互に見た。

…美しい…お伽話のような光景だ。
…僕は、いつか兄さんのような気持ちになれるのだろうか…。

温室を見渡す。
…蔓薔薇は変わらずにそこにある。
大紋に激しく抱かれたあの日…
蒸せ返るような薔薇の香気が熱く火照る身体から纏わり付いて離れなかった…。

…ほんの数ヶ月前のことなのに…
…もう…遠い昔のことだ…。
暁は寂しく笑う。

「…何を読まれていたのですか?」
暁の気持ちを知ってか知らずか、月城が尋ねた。
暁は月城に風間の写真を手渡す。
「拝見してもよろしいのですか?」
暁は頷く。
「…社交界でもすっかり噂になっただろう?
風間忍さんが義姉上の百合子さんとお子さんの司君を連れて駆け落ちなさったことを…」
…あれは…
「…暁様がご尽力されたと伺っております」
暁は眼を見張る。
「知っていたのか?」
月城は頷き、労うように言った。
「…危険を顧みず、よくぞなさいましたね」
褒められて照れて俯く。
「…僕は大したことはしてないよ。ヤクザ者を追い払ってくれたのは兄さんだし…」

月城はぽつりと呟いた。
「…一報を伺った時…私は、暁様が風間様と駆け落ちなさったと誤解したのです…」
暁は吹き出した。
「まさか!…忍さんには愛する人がちゃんといるんだよ」
彼は怜悧な美貌にやや焦れたような…困ったような不思議な表情を浮かべていた。
「…私は…のちにそれが勘違いと解り、心底ほっとしたのです…。…暁様が行かれなくて良かったと…。自分でも驚く程に安堵したのです…」
「…え…?」
思いがけない月城の言葉に思わず彼を見上げる。
月城の真摯な眼差しが暁を捉える。

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