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暁の星と月
第9章 ここではない何処かへ
「…んっ…!…春馬さ…んっ…」
暁は大紋の逞しい身体を押しやろうとするが、頑強な身体はびくともしない。
「…だ…め…」
大紋は抗う暁の顎を掴み、再び唇を重ねる。
男の熱い舌が暁の口内に浸入し、貪るように舌を捉え、強く絡め、吸う。
「…ああ…んっ…は…あ…っ…」
久しぶりの男のくちづけの感覚に暁の身体は甘く痺れる。
…春馬さんのくちづけ…
熱く、強引に奪い、身も心も甘く蕩けさせるようなくちづけ…。
…幾夜も夢に見た…熱いくちづけ…。

甘い掠れた喘ぎ声を上げ始めた暁の唇を狂おしく奪い尽くす。
そして、名残惜しげに唇を離すと、大紋は暁を砕けるほどに強く抱きしめ、振り絞るように小さく叫んだ。
「…愛している…暁…!…ずっと…ずっと…君だけを愛している…!今も愛しているのは君一人だ…!」
「…春馬さ…ん…」
驚愕の表情を浮かべる暁の貌を撫でながら、熱く見つめる。
「…妻は…絢子は…良い妻だ…。可愛いとは思う…。
…だが、身も心も熱くなるほどに…気がつくと狂おしく想い、求めてやまないのは君だけだ…!毎晩毎晩、君の夢を見る…君を抱き、愛し合う夢だ…昔のように…君をこの腕に抱く夢を…君の儚くも美しい笑顔を…幾度も見るのだ…」
暁の白磁のような頬に透明な涙が流れ始める。
「…春馬さん…」
…しかし、暁の脳裏に礼也の母、黎子の恐ろしい呪縛の言葉が蘇る。
…貴方は春馬様の将来を台無しにしてもいいの?

暁は必死で首を振る。
大紋の熱い抱擁から逃れようと、身体を攀じる。
「…だめ…だめです…!…僕たちは…結ばれてはいけないのです…」

大紋が暁の華奢な肩を抑え、真摯な眼差しで覗き込む。
「礼也の母上…縣夫人に脅されたのだろう?…君が僕と別れなければ、世間に公表すると…」
暁は息を呑む。
「…⁉︎」
大紋は優しく暁の髪を撫でる。
「…結婚して暫くした頃、ある夜会で夫人に会った。思わせ振りな事を言っていたから、気になってかまをかけてみたら…案の定だった。
…君が僕から身を引くように、夫人が仕向けたとあっさり白状したよ…」

暁は苦しげに美しい眉を寄せ、貌を背けた。
…知られてしまった…!春馬さんに…あのことを…。
大紋は暁の貌を自分に向けさせる。
熱く、真剣な眼差しが痛いほどに突き刺さる。
「…君はやはり僕のことを愛してくれていたのだね…僕のことを思って、身を引いて…あんな別れ方を…」


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