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暁の星と月
第9章 ここではない何処かへ
「…暁…」
…懐かしい声…
温かな手の温もりが額に感じる。
その指先が愛しげに暁の頬の線を辿る。
「…暁…」
温かな手は暁の胸元に置かれた手を握りしめる。
冷たく強張った手を温めるかのように、握りしめられ…その手に微かな唇の感触を覚えたその時…

暁はゆっくりと意識を取り戻した。
長い睫毛を震わせ、瞼を開く。
目の前には、暁を心配そうに見つめる大紋の貌があった。
「…暁…」
…幾度も夢に見た…大紋の貌だ…。
「…春馬さん…」
「…暁…大丈夫か?」
「…僕…は…?」
辺りを見渡す。
…事務所の仮眠室らしい部屋だ…。
思い出した…。
礼也が寝泊まりする時に使う部屋だ。
暁はきちんとベッドに寝かされ、額には冷たいタオルが置かれていた。
「…貧血を起こして倒れたんだ。…汽車でもろくに寝ていなかったそうじゃないか。…その上、こちらに着いてから不眠不休で被害者の介抱やら、事後処理やらを一人で…倒れて当たり前だ」
叱るような口調の中には、暁を心配する熱と優しさに満ちていた。
暁は大紋に微笑みかけようとして、それは泣き笑いに変わる。
「…兄さんが…大切にしている従業員が…何名も亡くなって…子どもも……兄さんが…いない時に…僕は…何も力になれなくて…兄さんに…なんて言ったらいいか…」暁は華奢な手で、貌を覆う。
小刻みに震えるほっそりとした身体、堪え切れない嗚咽…
大紋の胸はきりきりと締め付けられる。
「…暁…泣くな…!君は悪くない!」
気がつくと、大紋は暁を掬いあげるように暁を抱き上げ、自分の胸の奥深くに抱きすくめていた。
暁が息を詰める気配が伝わる。
「…暁…!」
「…は、離してください…」
暁が必死に大紋を突き放そうとする。
…懐かしい温かい胸…懐かしい大紋の薫り…力強い腕…
…全てが暁が恋い焦がれていたものだ。

「…離して…僕たちは…もう、こんなことをしてはいけないのです…」
苦しげに貌を背ける暁の貌を無理やり両手で包み込む。
「…暁…僕を見てくれ」
自分の方を向けさせる。
…潤んだ夜の帳のような黒い瞳…涙の雫が水晶のように絡む長く濃い睫毛…彫刻刀で刻んだような繊細な鼻筋…そして、傷つきやすい花のような唇…
大紋は暁の美しさに魅入られたかのように貌を近づける。
「…暁…愛している…」
熱い愛の囁きが吹き込まれるように、暁の唇は荒々しく奪われた。










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