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暁の星と月
第10章 聖夜の恋人
月城はまるでお伽話を紐解くかように、礼也と光の恋の話を始めた。
…兄、礼也と光は偶然、パリで再会したこと。
光はフランス人の画家の恋人との恋を反対され、大学も辞め、二人で駆け落ちしたこと。
恋人との生活を支える為に、なりふり構わず金を稼ごうとしていた光を礼也が見兼ね、自分の秘書として雇い間借りしているジュリアンの屋敷で一緒に暮らし始めたこと。
…いつしか、二人の間に恋の感情が生まれたこと。
恋人の画家としての成功を願い、光が身を引こうとし、その芝居に礼也が一役買ったこと。
二人が愛の一夜を過ごしたこと。
…そんな中、光の母が倒れ、家を継ぐ決心をした光が礼也に黙って日本へと帰国したこと。
後を追い帰国した光に礼也が会いに行ったが、気持ちがすれ違ってしまったこと。
…そして今日、北白川伯爵邸で光の見合いが行われていること…。

…それらすべての話が暁の知る兄、礼也ではなかった。
礼也が梨央と婚約解消してからも、礼也は華やかな恋をしてきた。
それらは全て後腐れのない一夜の恋であったり、大人の戯れの恋であった。
礼也は男女問わず人気のある人物だったので、恋の影があっても、暁は気にならなかった。

…しかし、月城が語った礼也の光に対する想いは今までの恋とは全く違うものだった。
美しい偶像に恋をしていたかのような梨央との関係性とも違う。
…それは剥き出しの生身の礼也を感じさせる生々しい、しかし人間味溢れる本物の恋であった…。

全てを聴き終えた暁は、ぼんやりと樅木を見つめながら呟いた。
「…そう…。兄さんは、光さんをそんなにも愛していたんだね…」
…暁の記憶にある光は、礼也に反抗的で跳ねっ返りの生意気な美少女であった。
その光を礼也は不快になることもなく、寧ろ楽しげに見つめていた。
…もしかすると、あの頃から兄さんは光さんに惹かれていたのかもしれない…。
暁は寂しさの中で腑に落ちる。

「…兄さんは、愛する人に巡り会えたんだね。…良かった…お祝いしなくちゃ…」
陽が落ち、玄関ホールの暖炉に火が赤々と燃え、暁の古典的な彫像のような美しいが儚げな横顔を照らす。

月城はその美しさに目を奪われながらも、余りに寂寥感に満ちたその表情に胸が締め付けられた。
「…暁様…私は、貴方のお力になりたいのです…」
思わず口走った言葉に、暁はゆっくりと振り返る。
黒い宝石のような瞳が月城を捉える。
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