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暁の星と月
第12章 堕天使の涙
縣家の客間に案内されると、そこには仲睦まじく寄り添う礼也と光の姿があった。
光は月城を見ると、嬉しげに笑った。

…以前の美しいがどこか尖った絢爛な美貌ではなく、穏やかで丸みを帯びた柔らかい美しさに変化しているのに驚かされる。
光はサーモンピンクの優しい色合いのゆったりとしたドレスに身を包んでいた。
髪も下ろしふんわりとカールされ、少女のような愛らしい雰囲気である。

「…お久ぶりね、月城。梨央さんと綾香さんはお元気かしら?」
「はい。お二人ともお健やかにお過ごしです。…光様のご体調を気にかけておいででした」
光は明るく笑った。
「だいぶいいわ。…悪阻が漸く収まったから、今度は食欲旺盛になってしまって…太らないか心配」
「…一時は何も召し上がれなくて、入院までされたからね。…本当に生きた心地がしなかったよ。…光さんが快復されて、本当に良かった…」
礼也は光の手を握りしめ、愛おしげにくちづけする。
礼也の光への愛情は以前にも増して深く濃くなっているようだ。

…光は妊娠5ヶ月を迎えていた。
そのほっそりとした腹部にはまだ子を宿している気配は感じられないが、光の穏やかで優しい顔つきにそれは顕著に表れていた。
「…では、私はお庭をお散歩してくるわ。…月城、ゆっくりしていってね」
ソファからゆっくりと立ち上がるのを甲斐甲斐しく介助しながら、礼也は優しく声をかける。
「侍女を連れていきなさい。…転んだら大変だからね」
光は礼也の過保護ぶりに苦笑する。
「妊娠は病気じゃないのよ。お庭を歩くくらい大丈夫だわ」
「いいや、駄目だ。君はお転婆だから何をするか分からないからね。…侍女を連れていきなさい。…気分が悪くなったら、直ぐに休むように。…それからまだ少し風が冷たいから、上着を着てゆきなさい」
「もう…。心配性なんだから。…月城が呆れているわよ。ねえ?」
月城は穏やかに微笑み、首を振る。
「縣様の光様への愛情の深さに敬服しております」
礼也は嬉しそうに笑う。
「さすがは月城だ。私のことをよくわかってくれている」
光の頬に愛を込めたキスを与えると、出迎えた侍女に光を引き渡す。
「お転婆な奥様が駈け出さないように、よく見てやってくれ」
侍女は慣れたように微笑ましく頷き、光をいざなう。
光は礼也に愛情を込めた投げキスをすると、幸せそうな表情で部屋を出た。



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