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暁の星と月
第3章 暁の天の河
…礼也はいつも、暁を起こさぬようそっと部屋に入って来る。
そしてベッドに近づくと、傍らに腰を下ろし、暫くじっと暁を見つめる。

…礼也のメルセデスが車寄せに到着した時から、暁はずっと起きているのに…。
しかし、暁はいつも寝たふりをするのだ。
起きていても叱られはしないが、暁は慈しみの表情でじっと自分を見つめてくれる礼也を伺うのが大好きだったからだ。
薄眼を開けて、そっと兄を見る。
深夜の帰宅でも、礼也は乱れた服装や疲れている様子など見せたことがない。
常に朝、出社した時と寸分違わぬ、そのまま夜会にも行けそうな美しく整った姿であった。

礼也は暫し暁を見つめると、決まって暁の髪を撫で
「…お寝み、暁。良い夢を…」
と、暁の耳元で美声で囁くと西洋式に額にキスをする。
礼也の芳しい柑橘系のフレグランスが鼻先を掠め、暁は胸の鼓動を感じ取られまいかと目をつぶりながらドキドキするのだ。

そうして礼也は、暁のブランケットをきちんと直し、枕元のランプの灯を消し、静かに部屋を出て行く。
…礼也の規則正しい足音が遠ざかり、礼也の部屋へと消えて行った時、暁はそっと瞼を開くのだ。
…今夜も兄さんにキスして貰えた…。

身体がふわふわ浮いてしまいそうな幸福感に包まれ、暁は再び、満ち足りた気持ちで本当の眠りに就く。
…それが、暁と礼也の就寝儀式だった。

…でも…
と、暁はふと不安になる。
…いつまで、兄さんは僕の寝顔にキスをしてくれるのだろうか…。
暁は17歳…。
礼也は暁を溺愛する余り、気づいていないのかもしれないが、世間的には大人に近付きつつある年齢だ…。

…いつまで、兄さんとこんな風に過ごせるのかな…。
大人になることは、良いことばかりではないのだな…と最近、暁は気づき始めていた。

「…何を考えているの…?」
その声にはっと我に帰ると大紋が優しいが、どこか寂しげな眼差しで暁を見つめていた。
「…あ、す、すみません…ぼんやりしてしまって…」
慌てて詫びる暁に、さりげなく指摘する。
「…礼也のこと?」
「え…?」
「…君が考え込むのはいつも礼也のことだ」
微笑む大紋に、暁は首を振る。
「いいえ、そんなことは…」
大紋は優しく笑いかける。
「いいじゃないか。…相変わらず仲良し兄弟で羨ましいよ」
…大紋さんはいつも優しい…。
その優しさが、時には心苦しくなるほどに…。




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