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暁の星と月
第3章 暁の天の河
礼也が退席しテーブルに大紋と暁だけになると、なんとなくぎこちない雰囲気になった。

…3年前の温室での出来事は、2人だけの秘密だ。
あれから2人はそのことに一度も触れたことはない。
3年間、大紋の暁への距離は親友の弟に対するものから一歩たりと外に出ることはなかった。
計ったかのように一定の距離を保ち続け、暁が輝かしい青春を送れるように積極的に助言し、時には忙しい兄、礼也の代わりに学院行事なども見守り続けていた。

しかし、大紋の大人の冷静な振る舞いの下に暁に対する熱い想いが未だ冷めやらぬことを、暁は敏感に感じ取っていた。
ふと目が合う瞬間の大紋の熱い眼差しや、礼也と話している時に見せる一瞬の切なげな眼差しなど…暁が大紋を振り返ると、魔法のように消してしまうそれらの切ない愛の仕草を、暁はずっと感じ取り…しかしどうすることもできなかった。
…暁はまだ…いや、14歳の頃よりも深く兄を愛していたからだ。
17歳へと成長した今、暁は礼也への気持ちが単純に兄を慕う肉親への愛ではないことを悟っていた。
しかし、この感情を恋と名付けるのは暁にとって畏怖以外の何ものでもなかった。
…自分を恐怖と孤独と貧困から救い出し、溢れんばかりの愛を注ぎ、大切に育ててくれた絶対的な存在の兄に…恋などという不埒な感情を抱くこと自体、汚らわしく忌むべきことと暁は怖れているのだ。
…だから暁は礼也に抱く感情を注意深く己れの胸の奥底に隠した。
誰にも知られぬように…。

「…相変わらず忙しいな、礼也は。食事も最後まで摂れないなんて気の毒だ」
やや緊張気味な暁の気持ちをリラックスさせるように、大紋は笑った。
「…ええ…普段も僕が寝静まってから帰宅することも度々あるので、兄さんの身体が心配なんです」

かつては礼也が帰宅するまで、まんじりともせずに玄関ホールで毛布にくるまり、兄の帰宅を待ち続けたこともあった。
礼也は
「風邪を引いたらどうする。頼むから、ベッドに入っていてくれ」
と懇願したので渋々、ベッドの中で待つことにした。
すると今度は、深夜を超えてもベッドで眠い目を擦りながら起きて自分を待つ暁を見て心配した。
「子供は早く寝なくては健やかに成長しない。遅くとも11時には眠りなさい」
寂しげに頷く暁に
「…その代わりどんなに帰りが遅くなっても、必ず暁の寝顔を見にゆくから」
と優しく約束してくれたのだ。

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