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暁の星と月
第12章 堕天使の涙
重ねて、礼也に頼む。
「兄さん、お願いします。光さんをゆっくり休ませて差し上げてください。…今夜は観劇でお疲れですし…」
礼也は男らしく決断する。
「分かった。では、私は光さんと帰るよ。…ナースを一人付けてもらった。何かあったら遠慮なく呼びなさい」
暁は頷く。
礼也はまだ心残りな貌をした光を抱きかかえながら、暁に優しく微笑んだ。
「…では、明日迎えに来る。…ゆっくりおやすみ。
…それから、本当にありがとう…」
「…ありがとう、暁さん…」
「…おやすみなさい、兄さん、光さん…」

静かにドアが閉まる。
暁はふっと息を吐いた。

…光さんが無事で良かった…お腹の赤ちゃんも無事で…本当に良かった…。
…でも…
…僕は…僕は、なんて恐ろしいことをしようとしたんだ…‼︎
あの魔が差したような悪夢の一瞬が不意に蘇る。
暁は身体を震わせる。
自分の身体を抱きしめる。
…僕は…僕は…なんて醜悪な人間なんだ…!
光さんは何も悪くないのに…なぜ、あんなことを…!

罪悪感と自己嫌悪に苛まれ、ぎゅっと瞼を閉じた暁の耳に、ノックの音が聞こえた。

ゆっくりと瞼を開く。
…さっき兄さんが言っていたナースかな…。

ドアが静かに開く。
現れた人物の貌を見て、暁は眼を疑った。
「…月城…!」

月城は執事の制服を身に纏い、そして珍しくやや乱れた髪型をしていた。
蒼ざめた貌の表情は酷く厳しく、端正ゆえに見るものに緊張感を与えるものですらあった。
月城は暁の貌を見ると表情を緩め、思わず声を漏らした。
「…暁様…!…良かった…!」
足早に暁が寝かされているベッドに近づく。
そして、抑えきれない情動を示すかのように、暁の華奢な白い手を握りしめた。
「…ご無事で良かった…!」
月城のひやりとした手は現実なのに、そこにいる月城は現実とは思えなかった。
…僕は夢を見ているのではないか…。

「…月城…なぜ、ここに…?」
恐る恐る尋ねる。
月城の冴え冴えとした眼差しが暁を凝視して離さない。
「…このところ、全くお越しにならないので思い切ってお屋敷に伺ったのです。…もしやご体調でもお悪いのではないかと思い…」
「…え…」
「…そうしたら…」
月城の端正な貌が苦しげに歪む。
「光様を庇われて階段から落ちて病院に運ばれたと伺い…私は…心臓が止まるかと思いました…!」
暁の手が痛いほど強く握りしめられる。





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