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暁の星と月
第12章 堕天使の涙
「…僕は光さんが憎かった…羨ましかった…。
生まれながらの貴族で、美人で、賢くて、気高くて…非の打ち所がない完璧な女性で…完璧な人生…。
兄さんに無条件に愛されて…子供まで身籠って…。
…そして、その幸福が永遠に続くと信じて疑わない無邪気さが、僕には傲慢に思えたんだ…。
僕は…光さんが階段から落ちて、お腹の子どもが流れたら…と想像したんだ。
光さんはきっと、持たざるものの気持ちが初めて分かるのではないかと…。
…子どもを持つことができない僕の…。
女を愛することができない…男しか愛することができない僕の…。
…いや、子どもが流れたら…兄さんはまた僕にもっともっと関心を持ってくれる…以前みたいに…と。
…そう、ただ僕の子どもじみた身勝手の為に、光さんを突き落とそうとしたんだ…!」
小刻みに震える暁の白い手が、月城のひんやりした大きな手に包み込まれる。
「…でも、貴方はそれをなさらなかった…」
幼子のように怯える黒い瞳を月城はじっと見つめた。
「…それが本来の貴方だ」
暁は首を振る。
「しようと思ったことが罪だ!」
「…貴方は思っただけでなさらなかった。
なぜなら…貴方が愛するお兄様が悲しまれるようなことを、貴方がなさるはずがない…!
人は他人を羨み、妬む生き物です。…誰しも心の闇を抱えているのです。
けれど貴方はその闇に囚われはしなかった。
…なぜなら、危険を顧みずに光様を身を呈して庇われたからです…。
それが貴方の本来のお姿なのです」
月城の静かだが力強い言葉が、優しく暁の傷ついた心に染み入る。
溢れる涙を拭おうともせずに、暁は月城を見つめ口を開いた。
「…光さんの背中に手を伸ばした時に…君の貌が思い浮かんだんだ…。君が…僕に笑いかけてくれたんだ…」

月城を抗いがたい衝動と情熱が襲う。
気がつくと、暁を強く胸に掻き抱いていた。
常に冷静な男が、震える声で呟く。
「…良かった…貴方を闇に閉じ込めないで済んだ…!」
暁は月城の逞しく温かい胸の中で、堰を切ったように泣き出した。
…さながら14歳の少年に戻たかのように、いつまでも月城の胸に抱かれながら泣き続けたのだった。
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