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暁の星と月
第12章 堕天使の涙
「…暁様…」
こんな時、言葉は無力だから唇を交わし合う。
ただ、この言葉だけを囁き続ける。
「…愛しています…」
「…月城…僕もだ…。僕も君を愛している…」
蕩けそうな甘く長く切ないくちづけを交わし合い、暁は自分の身体が飴細工のように柔らかく溶けてゆくのを感じた。
「…んんっ…だめ…もう…これ以上は…」
絡める舌を解いて、潤んだ瞳で月城を見上げる。
「…君が欲しくなってしまうから…」
月城は未練がましく暁の白いうなじに貌を埋める。
「…私もです…貴方が欲しい…!」
でも…と、暁の髪を優しく撫で微笑む。
「…今夜は我慢します…」
「…うん…」
「…暁様はお疲れでしょう。…早くお休みにならなくては…」
「…うん…」
暁は月城の怜悧な眼差しを瞬きもしないで見つめる。
月城は切なげに眼を眇める。
「そんな風に見つめないでください…貴方を離せなくなる…」
終わりのないくちづけが繰り返される。
月城がため息混じりに、告げる。
「…今夜は帰ります…ゆっくりお休みください…」
月城が立ち上がる。
暁は咄嗟に手を差し出す。
「…月城…。本当に…何処にも行かない…?消えたりしない…?」
暁の華奢な身体は再び月城の胸に抱き込まれる。
「…可愛いことばかり仰って…!…私を骨抜きにしないでください…!」
月城の水仙の薫りの胸にうっとりと目を閉じる。
「…うん…ごめんね…」
そう幸せそうに笑う暁は月城のスーツを握りしめて離さない。
だから月城はありったけの大人の分別を奮い立たせて、暁の清らかな額にキスをする。
唇のキスでは、終わりがないからだ。
「…お休みなさい、暁様…。…明日も参ります」
暁は眼を細めて笑う。
「…明日は退院だ」
月城は少し悔しそうに眉を寄せ、やや無愛想に言う。
「では、お屋敷に参ります」
月城の子供っぽい言動が可笑しくて、暁はベッドに膝立ちになり月城に抱きつく。
「…僕が君の家に行くよ。待っていて」
華奢な背中を抱き締め返す。
「…はい。お待ちしております」
暁からは異国の花のような切ない薫りが漂った。

未練を必死で振り払い、月城は別れの言葉を告げる。
「…愛しています。暁様…」
暁の白い頬が薄紅色に染まる。
「…僕もだ…月城…愛している…」

二人は月城がドアを開け、病室の外に出るまで愛の視線を絡め合い、愛を確かめ合ったのだった。

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