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暁の星と月
第3章 暁の天の河
雪が降りしきるクリスマスイブの夜、縣男爵は帰宅した。
男らしく整った目鼻立ちは礼也に良く似ていた。
日本人の中高年の男性にしては大柄で、そしてどこか山師的な色悪な雰囲気を漂わせる紳士でもあった。

…兄さんに似ているけれど、雰囲気がちょっと違う人だな…。
暁は緊張から兄の手をぎゅっと握りしめ、兄の陰に隠れてそっと男爵を見つめた。

縣男爵は暁を見つけると途端に破顔し、大きく手を広げた。
「ほう…!こりゃ、ゆきのに瓜二つだ!間違いないな!おいで、暁!」
礼也は苦笑しながら、暁を見下ろし優しく話しかける。
「私の父だ。…そして、お前の父でもある」
兄に促され、男爵の前に出る。
男爵は大きな手で暁の顔を持ち上げて、まじまじと見つめた。
「…これは別嬪さんだ。…いや、ゆきのより美人だな。ゆきのはいい子を産んだな」
明け透けな言葉に礼也は呆れたように窘める。
「…暁は男の子ですよ、お父様。…暁が戸惑っていますよ」
男爵は呵呵と明るく笑う。
そして、いきなり暁を抱き上げると人懐こい眼差しで笑いかける。
「そうだった。男の子だったな。…だが男の子にしておくには惜しいような美貌だ」
そして、神妙な顔をして詫びた。
「…色々、済まなかったな。小さいお前に辛い思いをさせてしまった。…妻のことも、礼也に聞いたよ」
悪かったね、としみじみ謝る男爵に慌てて暁は首を振る。
「…兄さんが…助けてくださいましたから…」
男爵は嬉しそうに頷く。
「そうか。…お前は、礼也が好きか?」
暁は途端に目を輝かせて頷いた。
「はい!兄さんが大好きです!」
男爵は大きな手で、暁の頭をくしゃくしゃに撫でる。
…兄さんに似てる…。
暁の胸がじわじわ温かくなる。
「…良かった…。暁、私はだらしなくて不甲斐ない父親だが、礼也は違う。礼也は賢くて優しくて思慮深い。…礼也の言うことを良く聞いて、この屋敷で健やかに育ってくれ」
そして、礼也に向かい真顔で頼んだ。
「…礼也、腹違いの弟だが、よろしく頼むよ」
礼也は男爵の腕の中の暁に優しく微笑みながら頷いた。
「お父様に言われるまでもなく、勿論そうしますよ。…私は暁が可愛いんです。立派な縣家の息子に育ててみせます」
嬉しくて暁はまた泣きそうになる。
…と、戯けて礼也が男爵に尋ねた。
「…もう他に弟はいないでしょうね?お父様」
男爵は高らかに笑い、答えた。
「多分な」




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